研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一原理計算を用い、有機半導体の不純物欠陥の形態・形成機構や欠陥準位の特徴・電子物性を解明し、有機半導体の不純物物理を構築することである。特に最終年度は、以下の研究成果を得た。 1.不純物欠陥の荷電化・キャリア散乱特性の解明:(1)有機半導体(PTCDA, pentacene)中で荷電化した様々な金属不純物欠陥の構造安定性を検討し、電気陰性度が小さく分子に分散吸着するAl等の金属原子は高々+1価にイオン化するが、陰性度が大きく固体内でクラスター化するAg等の金属原子は連続エネルギー準位を持つため容易に多価イオン化する。(2)これら荷電特性を反映し、Al等の金属原子は正孔キャリアを捕獲しクーロン散乱でキャリア易動度を大きく低下させるが、Ag等の金属原子はキャリアを捕獲・放出し、高密度で金属的伝導、低密度でトンネル伝導を引き起こす。これら結果は、従来の実験結果を初めて説明する。 2.有機半導体中の不純物欠陥研究の総括:(1)不純物原子が有機半導体中に作る欠陥準位は、電気陰性度と価電子数に依存して大きく4グループに分かれること、(2)金属原子不純物では、陰性度の小さいAl等は有機分子とイオン結合し原子間でクーロン斥力が働くため固体内で分散分布すること、(3)陰性度の大きいAg等は金属原子間で凝集するため固体内でクラスター形成すること、(4)形態を反映して、分散分布した不純物はクーロン散乱で易動度を低下させるが、クラスター化した不純物は金属伝導やトンネルリーク電流を生むこと等、不純物欠陥の形成過程や形態、欠陥が誘起するキャリア輸送特性の一般的な物理描像を解明した。これら成果は、有機半導体の不純物欠陥物理の進展をもたらし、将来のデバイス応用にも大きく寄与すると考えている。
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