ブレークジャンクションは、基板を機械的に変形させることにより基板上に設置した金属細線を破断するとともに、破断された細線間の距離をナノスケール以下の精度でコントロールする実験方法である。本研究では、ブレークジャンクションを用いて制御したナノ接合を精密に温度制御することで、1次元電子系に特有な量子臨界現象の検証や、ナノ接合における電気伝導度と熱伝達の関係の解明など、金属単原子鎖における低温量子伝導現象の探索を目的として実験を行った。 金の単原子接合では、コンダクタンス量子化の状態の温度依存性を調べるとともに、接合部にヘリウム原子を挟んだ場合の変化を検証した。ヘリウム原子を吸着させたとき、真空中での接合距離に対する指数関数的なコンダクタンスの振舞いから逸脱し、コンダクタンスの減少が観測された。減少の始まる接合間距離はバイアス電圧やヘリウム圧力にある程度依存するが、むしろ接合形成ごとのサンプル依存性が大きく、接合間距離がヘリウム原子の直径程度のとき減少の割合が最大となることが分かった。 Nb超伝導ジャンクションの片側接点をヒーターで温度制御し、単原子超伝導-常伝導(SN)接合の実験を試みた。接点の両側が超伝導状態のとき、微分コンダクタンスのスペクトルは超伝導-超伝導(SS)接合に特有な鐘型の曲線を示し、超伝導ギャップの2倍に相当する小さなショルダーも見られた。片側の電極を常伝導にしたとき、ディップの線幅はおよそ1/2となり、SN接合が形成されていることが示唆された。片方が常伝導であるべき温度でも接合の大きさ等によってはSS接合の振舞いを示すなど、SN接合の単原子化による影響の解明が新たな課題となった。常伝導および超伝導での実験を通して、温度を制御した単原子接合の研究環境を確立することができた。
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