(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー(TPCO)結晶は光励起レーザー発振や発光トランジスタなどの有機光デバイスへの応用が期待されている有望な有機半導体である。これまでTPCOをKCl基板上に気相成長するとニードル状構造の結晶が自己形成しファブリーペロー共振器として機能することを明らかにした。最近になりKCl基板上にマイクロリング状結晶が同時に形成していることを見出した。この結晶はリング共振器として機能し、極めて高いQ値とフィネスを示すウィスパリングギャラリーモード(WGM)を形成することを発光スペクトルから確認した。本研究では特にTPCOの一種であるBP1Tを用いて研究を行った。BP1Tを気相成長することにより直径数ミクロン程度のマイクロリング結晶がKCl結晶上に作製できる。これらはKCl結晶表面上に存在する円盤状の原子ステップ構造の周囲に分子が整列してエピタキシャルに付着し形成されたものと考えられる。この単一のマイクロリング構造について顕微発光分光を行いその発光スペクトルを調べた結果、WGMによる複数の極めて鋭い発光ピークのシリーズが観測された。その発光線幅より共振器Q値が最大2000程度、フィネスは最大30程度となることが判明し、有機材料を用いたWGMが現れる構造としては報告されている中では最大の値を示すことがわかった。これにより自己組織形成されるリング状結晶が極めて優れたリング共振器を構成することが明らかとなった。さらに個々のリング結晶において複数の系統だったモードが観測され、これらはそれぞれが異なるQ値を持つことがわかった。このQ値依存性はリングの断面サイズ及び形状に依存して現れる横モードの違いで説明できると考えられる。またモード間隔から各モードのWGMモード数を見積もることができ、リング共振器特性についての詳細を明らかにすることができた。
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