研究課題/領域番号 |
26400316
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
濱中 泰 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20280703)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プラズモニクス / 縮退半導体 / ナノ粒子 / 光物性 |
研究実績の概要 |
1.硫化銅ナノ粒子のバンド間遷移の吸収端のエネルギーは、キャリア密度が高い試料ほど高エネルギーにシフトした。硫化銅の自由キャリアは正孔であり、銅空孔の存在によりフェルミ準位が価電子帯内に下がり、正孔が増加することが理論計算により指摘されている。このとき光学バンドギャップは広がることになる(バースタイン・モス効果)。今回、硫化銅ナノ粒子において、この現象を観測することができた。これは金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴とは異なる半導体ナノ粒子の特徴である。 2.一般に局在表面プラズモンの共鳴周波数はナノ粒子の周囲の媒質に敏感で、媒質の屈折率の変化に伴って周波数は変化する。しかし硫化銅ナノ粒子は、共鳴周波数の屈折率依存性がMie理論により予測されるよりも小さかった。これがナノ粒子の表面配位子が存在するためであることを、ナノ粒子サイズと配位子の長さを変化させて調べ、初めて明らかにした。 3.硫化銅ナノ粒子の三次非線形感受率を測定した。非線形感受率は局在表面プラズモンに対して共鳴増大した。また粒子サイズに依存して値は変化した。これらの特徴は定性的に金属ナノ粒子のそれを一致しており、本質的に同様のプラズモン特性を示すことがわかった。しかし、同じサイズの金ナノ粒子と比較すると、非線形感受率は一桁小さいことを見出した。これはプラズモン励起の際にナノ粒子の感じる局在光電場が、半導体ナノ粒子では金ナノ粒子よりも小さいことを示唆している。この理由は未解明であるが、キャリア密度に差があることが関係する可能性がある。 4.局在プラズモンと励起子のクロスオーバーを広い範囲で調べるため、硫化銅ナノ粒子よりも低キャリア密度の硫化物半導体ナノ粒子であるカルコパイライトのナノ粒子の光物性を調査した。 5.プラズモンと励起子を独立に制御できる貴金属―半導体複合ナノ粒子の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では半導体ナノ粒子のキャリア密度を制御して、光学応答の主体が低キャリア密度の励起子から、高キャリア密度での局在プラズモンにクロスオーバーする過程を調べ、両者が共存する領域で両者の相互作用によって発現する現象を明らかにする。平成27年度には、キャリア密度を制御した硫化銅ナノ粒子を対象に研究を実施したが、キャリア密度が高いため局在プラズモン共鳴が主体であり、励起子を観測するに至っていない。キャリア密度をより減少させたナノ粒子を準備する必要があり、そのために硫化銅ナノ粒子の作製法を改善すると同時に、低いキャリア密度が実現できるカルコパイライトナノ粒子の準備と研究を平行して進めている。 一方、硫化銅ナノ粒子の局在表面プラズモンに関しては、先行して研究を進め、従来から良く知られている金属ナノ粒子のプラズモンとは異なる、半導体ナノ粒子の局在表面プラズモンの特徴を幾つか見出すことができた。その中には、フォトニクス応用に重要な、半導体ナノ粒子のプラズモンについては局在電場効果が小さいことがある。また、励起子応答と局在表面プラズモンの協奏現象を研究する場として金属―半導体複合ナノ粒子を取り上げ、金属コア-半導体シェルの構造を持つ複合ナノ粒子を準備した。コアの局在表面プラズモンとシェルの励起子の相互作用を研究する準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1.励起子と局在表面プラズモン共鳴の協奏現象について→現在までに得られた硫化銅ナノ粒子はいずれもキャリア密度が高く、局在プラズモン共鳴は顕著であるが励起子が明確に観測されるものはない。これらは励起子光学応答とプラズモンの協奏現象の研究に最適とはいえない。そこで硫化銅と同様にキャリア密度を変化させることができるカルコパイライト半導体のナノ粒子も研究対象に加える。このようなカルコパイライトナノ粒子はすでに準備できている。 2.高密度キャリアドープ半導体ナノ粒子の量子サイズ効果について→キャリアの量子閉じ込めが顕著になるサイズの半導体ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴は、金属ナノ粒子のMie理論では説明できない。従来、半導体ナノ粒子のサイズ分離に適用されてきた、溶媒への分散性の制御と遠心分離法を組み合わせた方法で、このような極微小な硫化銅ナノ粒子を単離できると考えられる。すでに3nmより大きい粒子はこのような方法で単離できるので、この方法を発展させて量子サイズ効果が局在表面プラズモンに及ぼす影響を調べる。 3.複合ナノ粒子における励起子と局在プラズモンの相互作用について→励起子と局在表面プラズモン共鳴の協奏現象は、両者が共存する高キャリア密度半導体ナノ粒子が対象となる。一方、コアシェル型やヘッドtoテイル型の貴金属―半導体複合ナノ粒子では、プラズモンと励起子を独立に制御できる。このような複合ナノ粒子を得ることに成功しているので、これを対象に研究を進める。 4.異方性硫化銅ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴について→非球形のナノ粒子の局在表面プラズモンはモード分裂を生じる。コイン型の硫化銅ナノ粒子を作製することに成功したので、半導体ナノ粒子の局在表面プラズモンについても、従来から知られている貴金属ナノ粒子のプラズモン理論が適用できるかどうか確かめる。
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