本研究の大局的目的は、自作の大規模電子状態計算コードELSES(http://www.elses.jp)を理論拡張し、 100ナノスケール系でのデバイス研究に発展させることにある。本年度の主要成果として、有機高分子の100ナノスケール(1億原子・世界最大)非理想構造集合体について、京コンピュータ全体を用いて、伝導メカニズムを解明した。主たる成果は、計算科学系国際会議SC16におけるワークショップScalA16に採択された。さらに、スーパーコンピュータ利用の優れた研究に対して授与される、HPCI利用研究優秀成果賞(2016年10月27日)を受賞した。また、本研究成果を主要実積として、主指導教員を勤めているD3学生(井町宏人氏)が博士論文を出版した。当該物質は、次世代フレキシブル(ウェアラブル)デバイスの基盤である。電気伝導の理論基盤としては、バリスティック伝導・非バリスティク伝導の2種の量子伝導機構の双方が必要であり、量子波束ダイナミクス法が必須となる。従来は計算コストの点から小規模系(または小規模分子系)しか扱えなかったが、本研究で100nmスケール(世界最大系)にいたる大規模計算手法に挑戦した。特にオーダーN法にもとづく超並列型グリーン(伝搬)関数を実空間で解析することで、高分子数本からなる動的ネットワークが伝導を担っていることが、解明された。アモルファス状の非理想構造に対して100ナノメートル系での解析ができることは、実デバイスへの適用に対してのブレークスルーと言える。波及として、京コンピュータにおける産業利用研究もスタートした。新たな発展として、台湾国立大数理系研究者であるWeichung Wang教授らとの共同研究として、データ科学との融合がスタートした。非理想構造はサンプル依存性があり、多数サンプルの計算および解析が必須となる。今後の発展につなげて行きたい。
|