研究課題/領域番号 |
26400321
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
齋藤 智彦 東京理科大学, 理学部, 教授 (30311129)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光電子分光 / 電子構造 / 遷移金属酸化物 |
研究実績の概要 |
本年度はCuMO2(M=Mn, Fe)とY1-xPrxCoO3、および(La,Sr,Ca)(Mn,Ga)O3を中心に高エ研Photon Factoryと理研SPring-8で測定を行った。またCuCrO2についてはバンド計算を行った。その結果、CuMnO2については、前年度報告したCuCrO2と同様に、Cuは主成分である1価成分と共に少量の2価成分を含むことが明らかになった。CuFeO2についても同様の結果が得られたが、根拠となる価電子帯光電子スペクトルの経時変化が大きかったため、現状では確定的とは言えない。Y1-xPrxCoO3については、Prが4+となっていることを明らかにした。Prは多くの場合3+として振る舞うが、Pr1-xCaxCoO3やYPBCO等では4+として振る舞うことが知られており、本系はこのグループに属することが判明した。即ち、PrとCo(あるいはCu)の組み合わせが重要であるらしいという強い示唆を得た。(La,Sr,Ca)(Mn,Ga)O3については、導電性を表すMn 2pの肩構造の温度変化・Ga濃度変化を測定し、強磁性転移温度で標準化した温度に比例した変化がみられることを見出した。さらにGaドープによるランダムネスの増大が大きく影響することも見出した。一方、CuCrO2のバンド計算は過去の先行研究を再現し、我々の角度分解光電子分光データと良い一致をみた。その結果、高熱電能を生む「プリン型バンド」と同定できる構造をデータに見出した。 これらの成果の一部は日本物理学会、日本放射光学会や国際学会等で発表した。またいくつかの結果について論文準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCuMO2(M=Mn, Fe)とY1-xPrxCoO3、および(La,Sr,Ca)(Mn,Ga)O3等について研究成果が得られた。Y1-xPrxCoO3は通常の分類では2遷移金属酸化物ではないが、PrとCoの組み合わせが重要であるという示唆が得られたので、内遷移金属であるPrも含めた2遷移金属酸化物と見なすことができる。従って、本年は、CuとMn, Fe, Cr、CoとPr、MnとGaといった組み合わせで、電荷移動やランダムネスがどのように電子構造と物性に影響を与えるかについて、多くの情報を集めることができた。これは「2背に金属酸化物の電子構造の系統性を表す要因を確立する」という研究目的の上で、十分な成果である。さらに、成果の現状を学会で報告し、一部は論文投稿直前の段階である。従って、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の報告書で「軟X線吸収分光(XAS)と軟X線光電子分光用のビームラインPF BL-2Aの共同利用公開が2015年秋からなので、来年度は積極利用する予定」と書いたが、同ビームラインの利用申請が非常に多いため、2015年度秋に1回利用できて以降、利用できておらず、XASと2p-3dあるいは3d-4f共鳴光電子分光がなかなか実施できていない。来年度は再申請や別ビームラインの利用も検討しながら、測定を実施したい。 また、今後はこれまでのデータの解析をさらに進めると共に、未測定試料の測定、論文執筆、及び結果の最終的なまとめに重点を置いてエフォートを費やす。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に「その他」の項目でSPring-8の秋におけるビームライン利用料約90万円を計上していた。これは2日分の利用料に相当し、液体ヘリウム料金は実費であるために概算である。今年度の夏の海外出張旅費が予定より多くなったため、消耗品費をゼロにしたとしても、液体ヘリウム料金によっては予算超過する可能性が生じた。これは利用後にわかるため、予算超過を避けるために、利用を1日ずつとし、1日分を科研費から支払った。そのため約40万の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初、3年目のビームライン利用料は1日分約45万円を想定していたので、これを2日分とし、今年度の残額は、全て来年度のビームライン利用料に使用する。
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