研究課題/領域番号 |
26400322
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
水木 純一郎 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90354977)
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研究分担者 |
藤田 全基 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20303894)
町田 昌彦 独立行政法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (60360434)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 銅酸化物超伝導体 / 共鳴非弾性X線散乱 / 放射光 / 電子格子相互作用 / 電荷励起 |
研究実績の概要 |
物性や機能発現の主役である格子振動エネルギー領域(100meV以下の低エネルギー領域)での電荷の動的相関、特に電子-格子相互作用の直接観察により銅酸化高温超伝導体における格子振動の役割を明らかにすることを目的として研究を進めている。銅酸化物高温超伝導体La2-xSrxCuO4の傾斜組成単結晶を作成することで、電子-格子相互作用の系統的な組成依存性を観測することができることを特長とした研究である。実験はスイス放射光施設SLSで行った。酸素K-edge近傍の入射X線エネルギーを利用した非弾性散乱(S-RIXS)を行うことにより電子‐格子相互作用が強い場合、その格子振動の情報が電荷励起スペクトルの中に現れることを予測した実験である。作成した試料は、長さ15 mm で、X=0からX=0.15まで変化するものを1本、x=0.15からx=0.3まで変化すもの1本である。結果はX=0では、明らかにCu-O縦波光学振動モードが電荷励起スペクトルに観測された。これまでの研究では、擬1次元銅酸化物において、S-RIXSで電子‐格子相互作用を定量的に議論した報告はあるが、今回のような3次元系での銅酸化物系で観測した例は初めてである。しかし、Xの増加により急激に格子振動の情報は見えなくなってきており、その詳細な定量的解析を実施している。 さらにRIXSによって2次元銅酸化物系(Sr14-xCaxCu24O41)において電荷秩序からの揺らぎを運動量・エネルギー空間で観測することに成功し、論文投稿した。(査読中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、J-PARCを利用した中性子非弾性散乱実験を予定していたが、J-PARCの事故により利用ができなくなった。しかし、軟X線を利用した共鳴非弾性X線散乱(S-RIXS)実験をスイス放射光施設SLSに申請したところ、ほぼトップに近い点数で採択され1年前倒しの実験が可能となった。さらに、当初作成が困難と予測されていた傾斜組成単結晶も短時間に成長することに成功した。現在はS-RIXSデータの解析中であるが、今年度前半までに論文化を目指せるところまで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
J-PARCの運転再開のめどもついたので、今年度は銅酸化物高温超伝導体La2-xSrxCuO4の中性子非弾性散乱実験(INS)と非共鳴非弾性X線散乱(NIXS)実験を行い、両方のスペクトルを比較する。これは、Ⅹ線と中性子では散乱における物質との相互作用の種類が異なり、従ってINS法とIXS法では原理的に異なった素励起を観測しているという原理に基づき、この事実を利用することによって格子振動の衣を引きずった低エネルギー領域での電子自由度秩序の揺らぎの異常な振る舞いを理論モデルに頼ることなく直接観測することにある。具体的には、キャリアー濃度X=0.15近傍の高純度単結晶を作成し、かつ新しく建設されX線強度が約10倍となったBL-43LXUでエネルギー分解能4~5 meVのNIXS実験、同単結晶のINS実験をエネルギー分解能4~5 meVで行う。また、両方のスペクトル形状を比較するために分解能関数を考慮したスペクトル解析ソフトを開発する。さらに他の高温超伝導体として注目を集めている鉄系超伝導体にも研究を広げ、格子と電子状態との関係を明らかにすべく、高圧下でのRIXS実験を行い、超伝導と格子、電子状態(磁性状態を含む)の相関を明らかにし超伝導発現機構解明に迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
J-PARCが事故のために運転が停止され、そのために計画していた実験やその準備のための出張が実行されなかったことが大きい。また、高圧下での実験でダイヤモンドアンビル(DAC)の破損が少なく購入数を抑えることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、J-PARCの実験やその準備、また東北大学の共同研究者との討論、場合によっては2014年度に実験を行ったスイス放射光施設に出かけていき、データ解析について議論する必要が予想され、2015年度は当初の予定金額を上回る旅費が必要となる。
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