高エネルギーX線回折実験から得られる動径分布関数(2体相関分布関数、atomic pair-distribution function; PDF)から強誘電体の短配位構造が、いかに長距離レンジ構造へと発展していくかを観測することを目的とした。従来の高エネルギーX線回折実験は入射X線のエネルギー分解能、回折計の測定分解能の問題で精度の高い平均構造モデルを得ることができなかった。我々は、光学系を一新し、両者の分解能を高め、60 keVの高エネルギーX線で得られた回折パターンでも、十分に精度の高いリートベルト解析を行うことができるようになった。これによって同一のデータセットを用いてリートベルト解析とPDF解析の両方を行うことができ、平均構造からのズレを可視化するだけでなく、局所構造から平均構造へと構造がアベレージアウトする過程を追跡することができる。 最終年度である2016年度においては、ニオブ系のペロブスカイトの構造解析を行い、ニオブイオンと酸素イオン間の結合のランダムネスが強誘電相の安定化に寄与していることを突き止め、非鉛圧電体材料の合成の指針を得ることができた。この研究成果は反響が大きく、同種のニオブ系ペロブスカイト構造を有する物質の構造解析を外部の研究者との共同研究に至った。これらの研究成果はセラミックス協会誌の強誘電体特集号にも取り上げられた。また、国内で圧倒的なシェアのリートベルト解析プログラム、RIETAN-FPにおいて、解析可能なエネルギー領域が高エネルギー側に拡張されたことも、高エネルギーX線回折実験のステータスが向上し、利用者が増えていることの表れである。 今後は、中距離レンジ構造の実空間分解能の評価をナノサイズの結晶粒子を用いて行い、ドメインを介した物性発現機構を有する物質の解析に取り組む予定である。
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