軟X線共鳴カー効果による希薄磁性物質のスピンダイナミクス研究

2015 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 26400328
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 松田 巌 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00343103)
• 研究分担者: 山本 達 東京大学, 物性研究所, 助教 (50554705)
• 研究期間 (年度): 2014-04-01 – 2017-03-31
• キーワード: カー効果 / 共鳴磁気光学カー効果 / スピントロニクス / 自由電子レーザー / 高次高調波レーザー

研究実績の概要

本研究課題では、我々が世界に先駆けて開発した軟X線共鳴磁気光学カー効果の測定法を複数の元素から構成される磁性体などに適用し、その複雑な磁性の起源を明らかにすることを目的としている。そして本技術と相性のよい自由電子レーザーや高次高調波レーザーなどの次世代超短パルス軟X線源とを組み合わせた時間分解実験技術も開発し、その超高速スピンダイナミクスの解明も狙っている。
超高速スピントロ二クス材料として注目されているGdFeCo結晶について、自由電子レーザーを用いた時間分解共鳴磁気光学カー効果の研究論文が国際ジャーナル誌に掲載された。磁性を担うFe原子の磁気光学カー回転角を選択的に測定し、フェムト秒時間スケールでそのスピンが反転する様子を捉えた。
高次高調波レーザーを用いた軟X 線共鳴磁気光学カー効果の測定システムについては光学系の配置が完了し、またポンプ－プローブ法による時間分解測定のための光学系も組み上げた。その際、光学アライメントのための要素技術開発も進めることができた。
最近、垂直磁気異方性が界面でのスピン-軌道相互作用（ラシュバ効果）で増強する報告があり、そのため磁性／非磁性多層膜に注目が集まっている。そこで、本研究では貴金属と3d遷移金属を組み合わせた磁性体材料の成膜を行った。そして放射光のX線分光を用いて化学組成及び磁気モーメントなどの物質評価を行い、本研究で目的とする物質が合成されていることを確認した。また希薄磁性トポロジカル絶縁体についても、共同研究者から試料提供をしてもらい、磁気モーメントなどの物質評価を放射光施設で行った。平成28年度にこれらの試料のスピンダイナミクス研究が時間分解共鳴磁気光学カー効果測定で行われる。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成27年度はおおむね予定通り研究が進んだ。高次高調波レーザーの光学系の設置が完了し、また研究達成に不可欠な対象試料の合成及び評価も行うことができた。

今後の研究の推進方策

平成27年度に申請していた自由電子レーザーSACLA/SCSS+での軟X 線共鳴磁気光学カー効果の実験課題が採択されたため、平成28年度はそのマシンタイム実験を行う。これまで放射光及び高次高調波レーザーで培ってきた軟X 線共鳴磁気光学カー効果の実験技術を展開する。また試料としても、平成27年度で合成・評価したものを使用する。貴重な自由電子レーザーのビームタイムを最大限に活用し、本研究を推進させる。

研究成果

• [国際共同研究] ELETTRA-Sincrotorne/Consiglio Nazionale delle Ricerche(イタリア)
  • 国名: イタリア
  • 外国機関名: ELETTRA-Sincrotorne/Consiglio Nazionale delle Ricerche
• [雑誌論文] Ultrafast spin-switching of a ferrimagnetic alloy at room temperature traced by resonant magneto-optical Kerr effect using a seeded free electron laser (2015)
  • 著者名/発表者名: Sh. Yamamoto, M. Taguchi, T. Someya, Y. Kubota, S. Ito, H. Wadati, M. Fujisawa, F. Capotondi, E. Pedersoli, M. Manfredda, F. Casolari, Maya Kiskinova, J. Fujii, P. Moras, T. Nakamura, T. Kato, T. Higashide, S. Iwata, S. Yamamoto, S. Shin, and I. Matsuda
  • 雑誌名: Rev. Sci. Instrum. 巻: 86 ページ: 083901-1,-5
  • DOI: http://dx.doi.org/10.1063/1.4927828
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] ラシュバ型スピン軌道相互作用誘起のFe超薄膜の垂直磁気異方性の変化 (2016)
  • 著者名/発表者名: 山本真吾、山本航平、田久保耕、福田憲吾、大島大輝、加藤剛志、岩田聡、和達大樹、松田巌
  • 学会等名: 日本物理学会第71回年次大会
  • 発表場所: 東北学院大学（宮城県仙台市）
  • 年月日: 2016-03-19
• [学会発表] ラシュバ型スピン軌道相互作用誘起のFe超薄膜の垂直磁気異方性の変化 (2016)
  • 著者名/発表者名: 山本真吾、山本航平、田久保耕、福田憲吾、大島大輝、加藤剛志、岩田聡、和達大樹、松田巌
  • 学会等名: 量子ビームサイエンスフェスタ
  • 発表場所: つくば国際会議場（茨城県つくば市）
  • 年月日: 2016-03-15
• [備考] 研究室ホームページ
  • URL: http://imatsuda.issp.u-tokyo.ac.jp/index.html