研究課題/領域番号 |
26400330
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
赤井 久純 東京大学, 物性研究所, 特任教授 (70124873)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | f電子系 / 磁気異方性 / 自己相互作用補正 / 最適化有効ポテンシャル / 交換相互作用 / 超微細相互作用 / 非局所ポテンシャル / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
局在化したf電子の状態を記述するために、自己相互作用補正(SIC)をf電子に対して適用する方法と、厳密交換項を用いた最適化有効ポテンシャルを適用する方法を開発してきたが、最適化有効ポテンシャルでは十分な軌道の分極が起こらない。そのためSICを用いる方法をさらに発展させる方向で研究を推進した。SICはユニタリー不変でないために軌道の選び方に対する任意性が残る。この点を改良するために、SICの新しい定式化を行った。この定式化ではSICを取り入れることは単一軌道に対する交換相関エネルギーを計算することに帰着する。単一軌道交換相関エネルギーを結合定数による積分の形で書き、その結果を結合定数の端点の一次結合で近似することによってFilippettii流のSICの表式を得ることができた。しかし一次結合の定数はFilippettii流の 0.5 とは限らない。ハイブリッドDFTの例にならえばこの定数は 0.25 となることから、この値を採用して以下の計算を行った。(1)RCo2 (Rはランタナイド)中の140Ceおよび111Cdの超微細磁場が摂動角相関(PAC)を用いて測定されている。f 状態を如実に反映するので、これらを計算し理論との一致を調べた。その結果、計算はランタナイドを変化させたときの全体としての傾向を再現はするものの、定量的な一致は得られない(100%以上の過大評価)ことが分かった。この事情は単純はLDA計算の結果でも同様であり、実験を説明するためにはさらに精密化した理論の枠組みが必要であることが示唆される。(2)Ceを含む磁石材料が、次世代の安価な永久磁石材料として注目を集めているが、Ceの価数制御が重要なポイントになる。そのことを念頭にSICを用いた計算によってどのような条件でCeの3価あるいは4価の状態が実現するかを典型的な永久磁石材料をベースにして計算し知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最適化有効ポテンシャル法が予想通りの結果を出さない主な理由の一つは、現在まで開発したコードは球対称ポテンシャルを仮定したものであるために、異なった磁気量子数を持つ軌道を区別することができず、したがってこれらの軌道の分裂を十分に記述する有効ポテンシャルを作れないためであることが分かった。当該年度ではこの点を改良するためにフルポテンシャルKKR法に最適化有効ポテンシャルを導入して研究をすすめる予定であったが、以下の事情によって予定通りに研究を遂行することができず、そのためやむをえず平成28年度まで研究期間の延長を行うこととした。当初予定していたコード開発のためのクラスター計算機が電子計算機室電源工事の遅延のため研究年度内での導入が不可能になった。このため予定していたコード開発およびテスト計算に大きな遅延が生じた。また、海外研究協力者が出産のため平成28年6月から平成29年8月まで休暇に入った。このため十分な共同研究を遂行することができなくなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究推進が遅れている最適化有効ポテンシャルの改良に向けて、海外研究協力者の協力のもとに、フルポテンシャルKKRコードに厳密交換項を用いた最適化有効ポテンシャル法を導入する。これを用いて希土類永久磁石材料を対象に f 状態の振る舞いを明らかにし、これまで用いられてきたオープンコアによる f 状態の取扱いの問題点を洗い出す。とくに単一イオン磁気異方性については同じフレームワークで計算すれば、異なったコードで計算しても似たような値を出すものの、異なったフレームワークで計算されたものとは定量的な一致は得られず、場合によっては符号さえ計算によって確定することができない。このような状況を改善することを目標にする。また28年度までに開発した自己相互作用補正の新しい定式化により生成された交換相関エネルギーを用いて、希土類永久磁石材料を中心に磁気異方性、交換結合、飽和磁化についての計算を進め、スピン模型との組み合わせによって、有限温度の磁気特性をシミュレートする。これによって永久磁石材料のデザインを目指す。有限温度磁気異方性を計算しているワーリック大学グループ、KKR法の開発において研究協力を行っているリンツ大学グループとの情報交換を行う。また、海外協力研究者との研究打ち合わせのためにミュンヘン大学への訪問を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたコード開発のためのクラスター計算機が電子計算機室電源工事の遅延のため研究年度内での導入が不可能となった。このため予定していたコード開発及びテスト計算に大きな遅延が生じた。また、海外研究協力者が出産のため平成28年6月から平成29年8月まで休暇に入った。このため十分な共同研究を遂行することができなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
クラスター計算機を購入してフルポテンシャルKKRコードへの最適化有効ポテンシャルの導入を完了する。この計算機コードおよび前年度までに導入を完了している新しいタイプの自己相互作用補正をいれたKKRコードを用いて、希土類磁石材料の有限温度特性の計算を購入したしたクラスタ計算機上で実施する。それらの研究実施にともなう海外研究協力者との研究打ち合わせのためミュンヘン大学およびリンツ大学への海外出張を予定している。
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備考 |
AkaiKKR machikaneyama は開発しているKKRグリーン関数法の計算機コードの公開ページである。
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