研究課題/領域番号 |
26400332
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 正茂 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20281058)
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研究分担者 |
古賀 幹人 静岡大学, 教育学部, 教授 (40324321)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子相転移 / 量子臨界点 / 磁気励起 / エレクトロマグノン / ヒッグスモード / 中性子散乱 / 電子スピン共鳴 |
研究実績の概要 |
ヒッグスモードが現れる典型的なモデルとして、単イオン異方性のあるS=1のスピン系を調べた。まず、ヒッグスモードが出現する理由を平均場近似によるエネルギー(ヒッグスポテンシャル)に基づいて考察した。その後、拡張されたHolstein-Primakoff理論で磁気励起の分散関係と動的スピン相関関数を計算した。その結果、ヒッグスモードが十分な中性子散乱強度を持って存在することを明らかにした。さらに、このモードを検出する新たな実験として、対称的スピン依存電気分極によるマグノン励起を調べた。反転対称性の無いスピン間では、スピン演算子の積(スピンによる四極子)が電場と同じ対称性に分類されるため、スピンによる四極子を通じて光の電場成分と磁性が結合する。そのため、光の電場成分で励起されるエレクトロマグノン励起が可能となる。この励起プロセスはヒッグスモードだけを選択的に励起するため、エレクトロマグノン励起はヒッグスモードを観測するための良いプローブであることがわかった。今後の実験による研究成果が期待される。
次に、スピンダイマーが3種類存在すると考えられているNH4CuCl3について調べた。中性子散乱で提案されているダイマーの空間配置を仮定して調べた結果、磁気励起が中性子散乱で報告されている3種類のエネルギー領域に存在することを確認した。低エネルギー領域では実験データが取れておらず磁気励起は未解明であるが、その中にヒッグスモードが大気圧下で存在していることを明らかにした。さらに、磁気励起の磁場依存性を調べた結果、電子スピン共鳴で観測されているエネルギーの磁場依存性を定量的に再現することに成功した。この結果は、NH4CuCl3には3種類のスピンダイマーが存在し、それらの間の相互作用で磁気秩序を起こし、磁化曲線にプラトーを出現させていることを強く示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画に記したように、初年度においては、ヒッグスモードを有する磁性体の典型例の研究をおこなった。具体的には、単イオン異方性のあるS=1のスピン系を調べ、ヒッグスモードが出現するメカニズムを明らかにした。さらに、ヒッグスモードは、光の電場成分で誘起されるエレクトロマグノン励起として観測可能であることも示した。これは、ヒッグスモードによる光応答を調べたものであり、研究実施計画に沿った内容である。
これらの研究に関しては、初年度に学術論文を3編出版している。また、強相関電子系の国際会議において研究成果を発表し、京都大学基礎物理学研究所主催の国際ワークショップにおいては「磁性体におけるヒッグスモード」というタイトルの招待講演をおこなった。
以上の理由から、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、ヒッグスモードと光との相互作用について、さらに詳しく研究を行いたいと考えている。具体的には、平成26年度におこなったエレクトロマグノン励起について、新しい別のメカニズムについても考察する計画である。その際、国内外の実験グループとも協力して、実用的な理論の構築を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度においては、研究結果が解析的な手法計算と比較的軽い数値計算の範囲で得られたため、計算量の多い数値計算を実行していなかった。そのため、計算機購入のための予算は未使用であったため、その予算が次年度以降に繰り越されている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、平成26年度よりも計算量の多い数値計算を実施する計画であるので、そのための計算機を購入する際の予算として、前年度の繰り越し額を使用する予定である。
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