研究実績の概要 |
当初計画ではキラル物質についてそのフェルミ面測定から反対称スピン軌道相互作用を系統的に観測する予定であったが、結晶の品質の問題から、その観測はYbNi3Al9およびYbNi3Ga9とこれらのLu化合物にとどまった。そこで研究方針を磁気抵抗効果と中性子散乱の測定、微細加工したマイクロ試料の磁気抵抗効果の測定に修正して、これらの測定と解析を進めた。 キラル磁性体YbNi3Al9およびそのCu置換試料、ErNi3Ga9、DyNi3Ga9について磁気抵抗を測定し、また、中性子散乱測定から磁気構造の解析を行った。その結果、ErNi3Ga9については、イジング反強磁性体であることを明らかとし、磁気モーメントのランダムな反転に伴って磁気抵抗効果に極大が現れることを明らかとした。DyNi3Ga9については、非常に複雑な磁気相図を持ち、磁気構造も非整合らせん磁性、キャントらせん反強磁性など複雑であることがわかった。磁場による逐次的な磁気構造の変化については並進ベクトルの決定に至ったが、磁気構造の詳細は決定できなかった。それにともなう磁気抵抗の解釈も今後の課題である。YbNi3Al9についてはキラルらせん構造の周期をCu置換により制御できることが明らかとなった。キラルらせん構造を磁場により駆動してステップ状の磁気抵抗を観測することを目的として、厚さ500nmに加工した微細試料の磁気抵抗測定を行ったが、バルクと同じふるまいが観測された。今後、さらに薄い試料を用い磁気抵抗を観測するとともに、電流密度を高めて、電流による磁気構造の駆動を試みる。 キラル磁性体との比較のために育成を進めたアキラル物質R2Pt6Ga15についてはその比熱について論文に取りまとめを行った。また、反転中心を持たない擬カゴメ物質であるRRhPbの育成に成功し、R=Nd, Sm, Gdについてその磁性について論文に取りまとめた。
|