研究課題
ゼオライトA(LTA)の中に単純立方構造で配列したカリウムクラスターは磁性元素を全く含まないにも拘わらず強磁性を示す.本研究の目的は,中性子回折により磁性のミクロな情報を得て,アルカリ金属のs電子がなぜ強磁性を示すのかを解明することである.昨年度,ドイツのFRM IIでの実験により磁気回折を観測することに初めて成功したが,q分解能が不十分であるため分離されない回折線があり,限定的な情報しか得られなかった.そこで,今年度はJ-PARCのTAIKANにおいて偏極中性子ビームを用いて,より高いq分解能かつ極めて高統計な磁気回折データを取得することに成功し,データの定量的な解析を完結させた.q < 2.0 A^-1の範囲の8本の回折線について,中性子スピンの偏極方向を反転させた時の強度比(flipping ratio)の解析を行い,磁気モーメントと磁気形状因子の積のq依存性を精密に求めることができた.磁気形状因子はqに対して素早く減衰した後に振動する様子が明確に観測された.これは強磁性秩序した電子スピン密度の空間分布の情報,つまりナノクラスターに広がったs電子の波動関数形状の情報を直接与える.簡単なモデル計算による波動関数との比較を行ったところ,スピン密度の広がりの大きさは概ねクラスターサイズと一致することが分かった.また,これに加え,単純な強磁性では禁制である111反射においても磁気回折を観測した.これは秩序モーメントの大きさが隣接するクラスター間で異なるという周期的な変調の存在を直接示しており,結晶構造における変調構造との対応が強く示唆される.これらは,この物質においてこれまでにはなかった重要な情報であり,例えば今後精密な電子状態計算が行われた際に定量的に比較可能な情報であるため,磁性の起源解明に近づく大きな一歩の成果が本研究により得られたと言える.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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