研究課題/領域番号 |
26400337
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
的場 正憲 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20229595)
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研究分担者 |
神原 陽一 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (50524055)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強磁性量子臨界状態 / 二次元近藤格子系 / 重い電子系 |
研究実績の概要 |
二次元近藤格子系CeFePOを母物質としたCe(Fe,Cr)POは、二次元近藤格子系の中でも希少な強磁性量子臨界点(QCP)を示すことが確認されており、強磁性 QCP 近傍における電子状態の探求に興味が持たれる。そこで、2年目は、強磁性QCP近傍物質Ce(Fe,Cr)POの単結晶を自己フラックス法で作製するための条件出しを行うとともに、57Feメスバウアー分光測定及び高磁場極低温比熱測定により、Fe原子核における局所微細構造、磁気相転移の存在及び Kondo一重項の形成の有無を明らかにすることを目的とした。 CeFe0.5Cr0.5POのメスバウアー分光測定において、20-50Kの間でスペクトル線の幅の増大が確認されるが、sextetは出現しない。そこで、内部磁場分布の存在を仮定したスペクトル解析を行ったところ、25K付近においてFeの磁気状態がSpin Density Wave (SDW) 状態に相転移していることが示唆された。 CeFePOの比熱測定において、Ce4fの寄与を見積もると、ゾンマーフェルト係数は約 780mJ/K2/molであり、LaFePOと比較して約80倍の電子比熱の増大が確認された。これは低温領域において Kondo一重項が形成され、これが電子熱容量を増大させたと考えられる。一方、CeFe0.8Cr0.2POでは、Crドープによる強磁性転移(Tc=6K)の出現と電子熱容量の著しい減少が観測され、低温領域で形成されていたKondo一重項のRKKY 相互作用出現による消滅(Kondo breakdown)現象が生じたと考えることができる。また、磁場印加により磁気相転移温度の増大が確認され、強磁性相における強磁性揺らぎの存在を示唆している。CeFe0.5Cr0.5POの比熱測定結果からは14K付近での磁気相転移の存在が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次元近藤格子系常磁性体 CeFePOは、抑制されていた強磁性転移が発現しかかった(磁気秩序発現寸前の磁気ゆらぎが発達した)量子臨界点(QCP)近傍物質の母物質である。本研究では、その電子物性の本性やその物性制御要因を探求し、二次元強磁性近藤格子における量子臨界状態を明らかにしながら、元素選択的な電子磁気状態相図を作製するとともに、二次元近藤格子系における量子機能の開拓指針を提案することである。 鉄系超伝導体関連物質である二次元近藤格子系常磁性体 CeFePOのFe サイトを Crで部分置換することにより、抑制されていた強磁性転移を発現させ強磁性QCP(Cr濃度約40%)が本質的に存在することを明らかにするとともに、二次元近藤格子系Ce(Fe,Cr)POの強磁性量子臨界相図を作成し、従来の強磁性量子臨界相図と大きく異なる新奇な特徴をもつことを明らかにした。Ce(Fe,Ru)Pでは、強磁性QCPがx~0.14で出現するのに対して、Ce(Fe,Cr)Pでは、強磁性QCPがx~0.4で出現することから、現在、強磁性QCPの物性制御指針を検討中である。 また、2015年度から、当初計画になかったCe(Fe,Cr)POの低温高磁場下比熱測定を新たに行うことで、CeFePOのゾンマーフェルト係数は、LaFePOと比較して約80倍程度、電子比熱が増大し、低温領域においてKondo一重項が形成されていることを明らかにした。興味深いことに、Crを20%部分置換すると、強磁性(Tc=6K)が出現し、Kondo breakdownにより電子熱容量は著しく減少する。また、磁場印加により磁気相転移温度の増大が確認され、強磁性相における強磁性揺らぎの存在を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
鉄系高温超伝導関連物質Ce(Fe,M)PO (M=Ru, Cr)において、抑制されていた強磁性転移が発現しかかった(磁気秩序発現寸前の磁気ゆらぎが発達した)量子臨界点近傍物質の電子物性の本性を明らかにするとともに、その物性制御要因を探求する。具体的には、高磁場極低温比熱測定、共鳴X線光電子分光(R-XPES)により、フェルミレベル近傍の電子状態を明らかにするとともに、共同研究を計画している京都大学石田グループ、及び京都大学原子炉実験所北尾グループと協力して、31P NMR、及び57Feメスバウアー分光測定により元素選択的な微視的な磁性の評価を行い、二次元強磁性近藤格子系Ce(Fe,M)PO (M=Ru, Cr)における電子状態相図の作製を行う。 さらに、昨年度に引き続き、強磁性量子臨界点(QCP)近傍物質Ce(Fe,Ru)POおよびCe(Fe,Cr)POの単結晶試料を、構成元素による化合物そのものの液相を利用した自己フラックス法にて作製を試みる。そして、純良試料において、三次元の金属強磁性量子臨界点に対する理論的に予言されている、電気抵抗率ρ∝Tの5/3乗や比熱C/T=a-b×logT(A, a, bは定数)といった非フェルミ液体的な温度(T)依存性が極低温で観測されるのか?近藤格子系において、強磁性秩序を消失(自発的対称性の破れが回復)させることにより大きな量子ゆらぎを発生させたときに、感受率、電気抵抗、比熱などの低温での振舞いにどのような異常が現れるのか?等について、純良単結晶の精密物性測定・解析を通して明らかにすることを計画している。
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