研究実績の概要 |
重い電子系には、磁気秩序を抑制させる近藤効果と磁気秩序を安定化させるRKKY相互作用の拮抗により、温度-化学組成相図上で、磁気秩序相と常磁性相の相境界が0 K付近で消失する磁気量子臨界点 (QCP)が存在する。Ce2O2層とFe2P2層からなる層状構造を持つ二次元近藤格子系Ce(Fe,Cr)POは二次元近藤格子系の中でも希少な強磁性QCPを示すことが確認されており、強磁性 QCP 近傍における新たな磁気秩序相や電子状態の解明が重要である。そこで、本研究では、注意深く合成した良質試料(Crの固溶限界:70%)の57Feメスバウアー分光測定及び高磁場極低温比熱測定により、Fe原子核における局所微細構造、磁気相転移の存在及び Kondo一重項の形成の有無を明らかにすることを目的とする。 磁場中比熱測定からCeFePOの電子比熱の増大から近藤温度TK=12 K 以下において Kondo一重項の存在が確認された。CeFe0.9Cr0.1POでは比熱の増大と強磁性転移が確認されたことから磁気相分離が起きていると考えられ、一方、CeFe0.8Cr0.2POでは、強磁性転移(TC=6 K)の出現と電子熱容量の著しい減少が観測され、低温領域で形成されていたKondo一重項のRKKY 相互作用出現による消滅(Kondo breakdown)現象が生じたと考えることができる。また、磁場印加により磁気相転移温度の増大が確認され、強磁性相における強磁性揺らぎの存在を示唆している。CeFe0.5Cr0.5POでは、57Feメスバウアー分光スペクトルに、20-50Kの間でスペクトル線の幅の増大が確認されるが、sextetは出現しない。そこで、内部磁場分布の存在を仮定したスペクトル解析を行ったところ、25K付近においてFeの磁気状態がSDW状態に相転移していることを示唆している。
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