研究課題/領域番号 |
26400338
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
中村 真一 帝京大学, 理工学部, 准教授 (80217851)
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研究分担者 |
池田 直 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (00222894)
三井 隆也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (20354988)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射光 / 核共鳴散乱 / 回折装置 / 結晶サイト選択性 / 鉄酸化物 |
研究実績の概要 |
SPring-8 BL11XUに設置されている核共鳴散乱装置において,核モノクロメーターの下流に汎用の回折計を組み込み,核共鳴回折装置を立ち上げた。θ-2θ回折計に特定の結晶面を切り出した単結晶を設置し,目的の反射光を得る手法を用いた。試料は,3種類の単結晶酸化鉄,α-Fe2O3,Fe3O4,及びYbFe2O4を用いた。 まず,α-Fe2O3単結晶の(222)面を用いて,室温で回折γ線によるメスバウアースペクトル測定に成功した。150 Kまでの低温測定を行い,モーリン点前後での内部磁場とその異方性を調べた。結晶中の不純物効果で,モーリン温度が通常より数10 K低下することや,転移後の核スピン整列により、回折された電子散乱と核共鳴散乱線の干渉効果がエンハンスされることなどが分かった。 次に,Fe3O4単結晶を用いて,室温においてメスバウアー回折実験による結晶サイト選択性の測定を試みた。111,222,及び220の3つの反射γ線によるメスバウアースペクトルの測定を行った。A,BサイトのFe比は本来1 : 2であるが,反射指数によって強度比が顕著に異なる吸収スペクトルを得ることができた,スペクトル強度は,試料による電子散乱(吸収)と核共鳴散乱(散乱)の合計として解釈される。電子散乱と核共鳴散乱の干渉効果によって,吸収線の広がり・非対称化や,ベースラインの傾き(高エネルギー側)が起こっている。また,測定の効率化を図るために,57FeエンリッチFe3O4単結晶を用いた測定も行い,より短時間で良好な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に設計・開発した核共鳴回折装置を用いて,SPring-8 BL11XU(日本原子力研究機構専用ビームライン)に2度,合計144時間のマシンタイムを得て,実際の測定を行った。3種類のFe酸化物(α-Fe2O3 Fe3O4, YbFe2O4)からの反射γ線を用いたメスバウアースペクトル測定に成功した。特に,マグネタイト(Fe3O4)の測定では,異なる反射指数を用いたスペクトルで,顕著な結晶サイト選択性を得た。A,Bサイトのスペクトル強度比は,結晶構造因子から期待される値とは逆傾向にあることが分かった。吸収線の形状は幅広く非対称で,ベースラインも高エネルギー側に向かって右肩上がりに傾いている。これらの事より,スペクトルが,電子散乱による分(吸収スペクトル)と核共鳴散乱による分(発光スペクトル)の重なり合いから成っている事が分かってきた。前者は,γ線が試料で反射する過程で,試料内を100~200μm透過する際に,通常の透過スペクトルを与えるものと考えられる。スペクトルは電子散乱分が主となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度実施の測定により,試料からの反射γ線を用いたメスバウアースペクトルが,電子散乱による分(吸収スペクトル)と核共鳴散乱による分(発光スペクトル)から成っている事が明らかとなった。本装置に結晶サイト選択制を持たせるには,結晶構造因子が直接関係する後者の核共鳴散乱を利用するほかない。そのためには,電子散乱をカットする必要があるが,放射光の偏光特性を利用する。π偏光で光を入射した場合,電子散乱はπ偏光で反射し,その偏光因子はcos2θBである。従って,ブラグ角を45°近辺に設定すれば,電子散乱の反射を抑える事ができ,同時に干渉効果も抑える事ができる。その手法を確立したのちに,他の物質についても測定を行う。測定の効率化を図るため,試料はエンリッチ57Feで合成した単結晶を用いる。具体的には,以下の測定を計画している。 (1)測定試料で,ブラグ角が45°近辺の反射を選定して,γ線回折実験を行う。試料としては,典型物質であるマグネタイトを用いる。 (2)試料とカウンターの間に,偏光アナライザーを設置し,ここで電子散乱をカットする。試料としては,やはりマグネタイトを用いる。 (3)2種類のFeサイトを有するFe3BO6の測定。単結晶はすでに合成出来ている。 (4)混合原子価酸化物YbFe2O4の測定。新たにエンリッチ57Fe単結晶を合成し,電荷秩序配列を検証する測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度末(平成28年3月中旬)に物理学会出張を行い,そこで旅費として本年度予算を使い切る予定であったが,予定額よりも安価に済んだため,18000円程度の繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度のSPring-8共同利用実験のための出張費に充当する予定である。
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