研究実績の概要 |
前年度に立ち上げた核共鳴散乱回折装置(放射光メスバウアー回折装置)を用いて,複鉄サイト酸化物の結晶サイト選択的メスバウアースペクトルの測定に成功した。回折γ線は,通常の透過スペクトルを与える電子散乱と構造因子に関係した発光スペクトルを与える核共鳴散乱から成っている。サイト選択性的スペクトルを得るためには,核共鳴散乱のみ取り出すか,電子散乱を抑制する必要がある。このために3つ手法を確立した。 1.45度法。π偏光γ線に対する電子散乱の偏光因子がブラッグ角45°で0になる事を利用する。A,Bの2種類のFeサイトを有するFe3O4単結晶を測定試料とし,10 10 0反射(46.48°)および666反射(32.26°)を用いた回折スペクトル測定を行った。その結果,それぞれ,Aサイトのみ,Bサイトのみ発光スペクトルを得た。 2.偏光アナライザー法。試料と検出器の間にさらに偏光アナライザーを設置し,ここで45度法を適用する。アナライザー結晶として,Si(840)面(ブラッグ角45.1°)を用いた。この方法だと,試料からの反射指数の選定に汎用性を持たせる事ができる。Fe3O4単結晶の222反射を用いた回折スペクトル測定により,Bサイトのみの発光スペクトルを得た。 3.純核ブラッグ散乱法。Feモーメントの磁気対称性が結晶構造の対称性より低い時に生じる,純核ブラッグ散乱を利用する。電子散乱は本質的に無い。コリニア反強磁性体の禁制反射が典型例である。Fe1, Fe2の2種類のFeサイトを有する反強磁性体Fe3BO6を測定試料とし,その禁制反射300, 500, 700による純核ブラッグ散乱を用いて回折スペクトルの測定を行った。いずれもFe核構造因子で決まる散乱強度比に一致したFe1, Fe2強度比のスペクトルを得た。特に,300反射スペクトルでは,Fe1サイトのみによる発光スペクトルを得た。
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