ウランカルコゲナイドである二硫化ウランは常圧下で狭いギャップを持つ常磁性半導体であり、 外部磁場、圧力によって電気伝導率が極端に応答するが、起源は不明のままである。共有結合性の強いカルコゲン化合物に特有の強い p-f 混成効果によってもたらされた磁気異方性の大きな電子状態と強磁性磁気揺らぎが機構解明の鍵と考える。この二硫化ウランにおける巨大磁気抵抗効果の微視的起源を調べることを目的に、平成26年度においては、核磁気共鳴(NMR)敏感核であるS同位体を50%濃縮した二硫化ウランの単結晶を育成した。NMR 敏感 S 核は自然存在比が0.36%と低く、通常NMR研究が行われることは少ないが、NMRは微視的磁気情報を得ることが出来るため、本系の総合理解には不可欠と考える。極端な価格上昇のために、当初予算はほとんど同位体原料調達のみに用いた。この高価な同位体原料を用いた同位体濃縮のために、反応系となる石英管を通常よりも細いものに変更し、電気炉の温度勾配等の最適化に時間をかけた結果、濃縮度50%の数mm角オーダーのバルクの単結晶育成に成功できた。X線ラウエ回折法、電子線マイクロアナライザにより、二硫化ウラン単結晶であることを確認した。また、比較対象としてリン・硫化ウランについても、単結晶育成を行い、バルクの単結晶を得ることができた。今後、化学的組成・構造評価、電気抵抗率、比熱、磁化測定等を用いて試料評価を行った後、本格的に S 核 NMR 観測に取り掛かる。そのためのNMR プローブの調整も行った。
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