ウランカルコゲナイドである二硫化ウランβ-US2は、常圧下低温で常磁性半導体であり、外部磁場、圧力によって電気伝導率が極端に応答するが起源は不明のままである。この二硫化ウランにおける巨大磁気抵抗効果の微視的起源を調べることを目的に、微視的測定である核磁気共鳴(NMR)実験を行なっている。目的核は安定同位体33S核であり、NMR敏感核であるが自然存在比が0.36%と極端に低いが、平成26年度にこれを50%に濃縮したβ-US2の単結晶育成に成功した。平成27年度以来、この単結晶を使用して、33S核NMR実験を行なっている。33S核は、核スピン3/2の原子核であり、局所対称性が立方対称性よりも低い場合、核四重極相互作用により、外部磁場中で磁気的に区別できる一つのサイトに対して、中心遷移線、2本の側遷移線の計3遷移が観測される。β-US2には、二つのS1サイト、S2サイトが存在する。外部磁場中で、それぞれのサイトが電場勾配の主軸となす角が異なる二つに分別できるため、計12本のNMRスペクトルが観測される。磁場角度依存性から、各S1、S2サイトの局所電場勾配パラメータを決定した。平成28年度は、核磁気緩和率測定に取り組んだ。6Tの外部磁場下において、核磁気緩和時間は高温100 Kにおいて0.01秒程度であるが、低温10Kでは20秒と極端に長くなっており、これは、電気抵抗が半導体的に振る舞うことと合致している。興味深いことに、緩和率はある温度以下で急激に減少する。この外部磁場依存性を継続して測定を行なっており、それが完了次第、外部発表を行う予定である。 また、外部磁場応答する電子状態についてさらなる知見を得るために、国際共同研究加速基金の採択を受けて、強磁場下NMRを米国において展開する予定である。二硫化ウランβ-US2は、極低温強磁場30T以上で金属化することが知られており、本NMR研究により、微視的な電子状態を明らかにする。
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