研究課題/領域番号 |
26400342
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柳澤 達也 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10456353)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超音波 / 弾性定数 / カゴ状化合物 / 国際情報交換 / アクチノイド / アメリカ:ドイツ:チェコ |
研究実績の概要 |
SmOs4Sb12の弾性定数C11とC44について、ドレスデン強磁場研究所においてパルス磁場を用いた60 T迄の超音波測定を実施した。実験結果を局在電子模型に基づく四極子感受率により解析した結果、弱磁場領域で強い混成効果を示す本系の4f電子は、20 T以上の高磁場領域では局在性を回復しており、結晶場基底状態はΓ67四重項であることの証拠を得た。この成果はJ. Phys. Soc. Jpn.からレター論文として出版された。
北海道大学に於いて、ハイブリッドピストンシリンダー型圧力セルに極細の同軸線を2本導入した手法により、0.98 GPaまでの静水圧力下におけるSmOs4Sb12の弾性定数C44の精密測定に成功した。パルス磁場実験と同様に四極子感受率による解析から、本系が示すc-f混成効果が圧力印加によって抑制される振る舞いを明瞭に捉えた。また、圧力下での低温秩序相における弾性応答について、平均場近似による解析を行ない、高圧領域での低温秩序相において磁気八極子間の相互作用が支配的になることが裏付けられた。
昨年度、カリフォルニア大学サンディエゴ校のMaple研究室で育成に成功した新物質PrNi2Cd20は、電気抵抗・磁化・比熱測定を行った結果、Γ1もしくはΓ3の非磁性結晶場基底状態を持つ事が予想されている。その議論に決着をつけるため、ドレスデン強磁場研究所にPrNi2Cd20の単結晶試料を移送し、希釈冷凍機を用いてΓ3対称性の歪み場に対応する横波弾性定数(C11-C12)/2を測定し、2 K以下0.1 Kまで続くソフト化を発見した.これは本系の結晶場基底状態がΓ3クラマース2重項を持つ事を強く示唆する結果である。加えて、超伝導磁石を用いた17.5 Tまでの強磁場実験を行い、音響dHvA振動を観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究実施計画は概ね遂行された。 ハイブリッドピストンシリンダ型圧力セルを用いたSmOs4Sb12の超音波測定は、横波弾性定数C44に加えて、縦波弾性定数C11の測定にも成功し、現状では圧力P ≦ 1.2 GPa(測定周波数f ≦ 250 MHz)のデータを得ている。本系はカゴ原子構造に内包されるイオンの熱活性振動(「ラットリング」と呼ばれる)に対応する周波数依存を伴う弾性異常が観測されるが、圧力の増加に伴いその特性エネルギーが著しく減少する振る舞いを明らかにした。また、本系の常圧下2.5 Kで示す低温磁気秩序相は圧力の増加に伴い転移温度が増大することがこれまでに報告されていたが、本研究によって転移前後での弾性定数のソフト化の変化量が圧力下で著しく増大することを新たに突き止めた。これは横波弾性定数C44の結果と併せて、圧力下で4f電子の局在性が回復していることを強く示唆する結果である。 また、当初の研究計画には含まれていなかったが、非クラマース2重項を結晶場基底状態に持つカゴ状化合物として新物質PrNi2Cd20の単結晶育成に成功し、その弾性応答を希釈冷凍機を用いて測定した。この研究テーマは国際共同研究加速基金でさらに追究する。 尚、当初の研究計画ではPrOs4Sb12の極低温実験が予定されていたが、SmOs4Sb12のパルス磁場下および静水圧下実験において予想以上の成果が得られた為、本年度はSmOs4Sb12とPeNi2Cd20の実験に注力した。
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今後の研究の推進方策 |
ハイブリッドピストンシリンダ型圧力セルを用いた静水圧下超音波測定は、これまで零磁場下で行われていたが、超伝導磁石とヘリウム3冷凍機を用いて、測定温度・磁場領域をT < 2 K・H < 17 Tに拡張し、極低温・強磁場・高圧下の複合極限環境におけるSmOs4Sb12の弾性応答に関する情報を集める。
カリフォルニア大学サンディエゴ校で育成した新規カゴ化合物PrNi2Cd20について、ドレスデン強磁場研究所のパルス磁場を用いて、強磁場下超音波実験を行う。低温でのパルス磁場の印加ではエディカレントによる発熱が懸念されるため、それと並行して東北大学金属材料研究所のハイブリッド磁石の共同利用申請を行い、静磁場下における17 .5 T超の弾性応答の観測も試みる予定である。前年度迄の測定で検証されていない対称性の超音波モード(C44, C11)での測定(H < 8 T)も行う。PrNi2Cd20とその類似物質に研究を拡張した新たな研究計画が「国際共同研究加速基金」として採用された為、それらの予備実験を次年度以降も継続して行う予定である。
上記のSmOs4Sb12, PrNi2Cd20の実験を優先して行う予定であるが、当初研究計画に挙げた非従来型超伝導を示すPrOs4Sb12、UBe13、初年度に行ったU3Pd20Si6の超音波測定も可能な限り継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額で購入した物品はは平成28年3月末迄に納品を完了し、本学の会計処理上はすでに全額執行済みであるが、科研費の実績報告上は3月支払までを対象とするため、繰越額が発生している。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度の実績報告の際に計上する。
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