研究課題
近年、新規な電子ネマティック状態に注目が集まっている。銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ状態はまだ完全解明に至っていないが、最近、擬ギャップ状態が電子ネマティック相である可能性が指摘され、あらためて擬ギャップに注目が集まっている。本研究では、銅酸化物の擬ギャップ状態が電子ネマティック相かどうかについて、走査トンネル顕微鏡・分光(STM/STS)実験から知見を得ることを最終的な目的とする。平成26年度は、主に以下の2つの項目について研究を推進した。1.擬ギャップを示す銅酸化物高温超伝導体の良質単結晶作製。2.試料回転機構およびXYステージの設計・作製およびSTM装置への組み込み。上記1の単結晶作製では、擬ギャップ状態で電荷秩序が報告されているビスマス系銅酸化物に注目した。本研究では、ピュアな試料と少量の鉄不純物を添加した試料の両方の単結晶を、赤外線イメージ炉を用いた溶媒移動浮遊帯域法により作製した。得られた試料を、X線回折、磁化率、電子比熱、ゼーベック係数の測定から総合的に評価し、目的とする単結晶試料であることを確認した。さらに、作製した単結晶を用いて低温STM実験を行い、十分な原子分解能を持つSTM像の観測に成功した。来年度以降、低温STM/STS実験により局所状態密度の空間依存性(LDOS像)を測定する予定であるが、そのためには良質な表面を持つ単結晶が不可欠である。今年度得られた単結晶試料は来年度以降のSTM/STS実験に十分適した試料であることが分かった。また、上記2の回転機構とXYステージについては、研究計画通りに回転機構およびステージの新規設計・組み込みを行うことが出来た。これにより来年度以降、STM/STSデータの探針スキャン方向依存性を調べることが可能となり、擬ギャップ状態におけるネマティシティと探針形状との関連性について明らかにしていくことが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、銅酸化物超伝導体の擬ギャップ状態が電子ネマティック相かどうかについて、走査トンネル顕微鏡(STM/STS)実験から知見を得ることを目的とし、平成26年度の研究では主に、1.ビスマス系銅酸化物超伝導体(ピュア試料および少量の鉄を添加した試料)の良質単結晶の作製と評価、2.試料回転機構およびXYステージの設計・作製およびSTM/STS装置への組み込み、について推進することを計画した。上記1の単結晶作製では、研究計画通り、ビスマス系銅酸化物の単結晶試料(ピュア試料と少量の鉄を添加した試料の両方)を溶媒移動浮遊帯域法により作製し、X線回折や磁化率測定等の物性評価実験から、目的の単結晶試料が得られていることを確認した。さらに、得られた単結晶試料を用いた低温STM/STSの予備実験を行い、十分な原子分解能を持つSTM像の観測に成功した。これらの試料作製と物性測定結果について、日本物理学会の2014年秋季大会と第70回年次大会(2015)、2つの国際会議(SUPERSTRIPES 2014(イタリア)、およびNew3SC-10(中国))で既に報告している。また、上記2については、新たに設計したシェアピエゾ駆動型試料回転機構およびステージが既に組み立てられ、既存のSTM装置への組み込みも終了している。さらに、それらの制御プログラムの改良も順調に進んでいる。以上の理由により、現在までの達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
今後の研究は、以下の3つのプロセスで推進する。1.STM/STS装置に組み込んだ試料回転機構をSTM/STS測定と連動させるために、それらの制御プログラムを現在の測定プログラムに付与する必要がある。平成26年度から既にこのプログラム開発を進めているが、それを平成27年度前半に終了させる。局所状態密度の空間依存性を広い領域で測定する際には測定が長時間におよぶが、この制御プログラムが完成すると、その長時間の測定が完全に自動となり、より精密な測定につながる。2.平成26年度に作製したビスマス系銅酸化物単結晶に対し、試料回転機構を導入したSTM/STS装置を用いて予備実験を行う。この段階では試料の回転はピエゾ駆動電源を手で操作して行うことになるが、実際に試料を回転させながらSTM/STS実験を行うことで、最適な実験条件に関して情報収集を行うことができる。3.上記1と2の段階の後に、鉄不純物を少量添加したビスマス系銅酸化物単結晶試料において、試料を回転させながら、様々な探針スキャン方向において、局所状態密度の空間依存性を測定する。得られたデータの解析から、局所状態密度の空間依存性に現れるネマティシティと探針形状との関連性について明らかにしていく。
次年度使用額(35,307円)が生じたのは、STM/STS実験で用いるSTM探針(消耗品)の使用量が、当初の予想よりも若干ではあるが、少なく済んだためである。STM探針の使用量は、STM/STS実験の回数やその実験内容(探針がダメージを受けるか否か)に大きく依存し、平成26年度は、STM/STS実験で探針がダメージを受ける回数が比較的少なく済んだため、その分、消耗品費が少額ではあるが次年度に繰り越しとなった。
次年度に繰り越した使用額は35,307円であり、STM探針に換算すると約4本分の金額である。平成27年度には平成26年度よりも数多くのSTM/STS実験を行う必要があり、STM探針(消耗品)も数多く必要となる。したがって当初の使用目的であるSTM探針の費用として使用する計画である。
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Physical Review B
巻: 90 ページ: 100510-1-5
10.1103/PhysRevB.90.100510