研究課題
走査トンネル顕微鏡や共鳴X線散乱実験などから銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ状態において電荷秩序が発見され、その電荷秩序の起源が注目されている。本研究では、電荷秩序が発達している擬ギャップ状態が電子ネマティック相かどうかについて、走査トンネル顕微鏡(STM/STS)実験から知見を得ることを最終的な目的とする。平成27年度は以下の3つの項目について研究を推進した。1.STM/STSに新たに追加したシェアピエゾ駆動型回転機構の制御プログラムの開発2.シェアピエゾ駆動型回転機構の予備実験3.不純物を添加したビスマス系銅酸化物単結晶試料の作製および評価上記1の制御プログラム開発では、STM/STSの測定と連動して試料台を回転するように設計した。今回は試料台回転機構用とSTM/STS測定用とでコンピューターを分けたため、STM/STSのスキャン時間を入力し、その時間によって試料台の回転を制御する時間ベースの駆動型とした。また、2の予備実験では、Bi2212単結晶のSTM像を観測し、その像の動きから試料台の回転を確認できた。さらに、3では、不純物として少量のFeを添加したBi2212単結晶を作製し、そのSTM/STS実験を行った。本研究では、回転軸を探すためのマーカーとしてFe不純物の位置を使う予定であり、Fe不純物の位置を特定する方法を見出すことが重要となる。平成27年度の研究において、Fe不純物の位置が強調されるように正バイアスと負バイアスのSTM像の差をとることにより、Fe不純物の位置の特定に成功した。これらにより来年度において、探針形状を考慮した上で擬ギャップ状態におけるネマティシティについて明らかにしていくことが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、銅酸化物超伝導体の擬ギャップ相が電子ネマティック相かどうかについて、走査トンネル顕微鏡(STM/STS)実験から知見を得ることを目的とし、平成27年度の研究では、1.STM/STSに新たに追加したシェアピエゾ駆動型回転機構の制御プログラムの開発2.シェアピエゾ駆動型回転機構の予備実験3.不純物を添加したビスマス系銅酸化物単結晶試料の作製および評価について推進することを計画した。1の制御プログラムの開発では、時間駆動型ではあるが、研究計画通り、試料台の回転機構を制御することができた。また、2の予備実験においても平成26年に移動浮遊溶融帯域法により作製したビスマス系銅酸化物の単結晶試料(ピュア試料と少量の鉄を添加した試料の両方)を用いて試料台の回転を確認した。さらに、Feを添加した単結晶試料を作製し、その低温STM/STSの実験から、Fe不純物の原子レベルでの位置の特定に成功した。これらの結果について、査読付き英語論文(5報)、日本物理学会2015年秋季大会(2件)と国際会議(2件;SUPERSTRIPES 2015(招待講演、イタリア)、ICM2016(スペイン))で既に報告している。以上の理由により、現在までの達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
今後の研究では、Fe不純物を添加したBi2212単結晶において、試料台回転機構をSTM/STS測定と連動させながら、STM/STS実験を行う。具体的には、まず、様々スキャン方向において、局所状態密度の空間依存性を測定する。次に、得られたデータを解析し、局所状態密度の空間依存性に現れるネマティシティと探針形状との関連性について調べ、擬ギャップ相のネマティシティについて結論する。探針形状の影響を取り除くことが難しい場合でも、その影響の大きさを見積もり、局所状態密度の空間依存性に現れるネマティシティの強さと比べることで、電荷秩序が発達している擬ギャップ状態が電子ネマティック相かどうかについて、結論することができると考えられる。
走査トンネル顕微鏡・走査トンネル分光実験における消耗品が予想より少額で済んだためである。
次年度使用額は極めて少額なため、次年度の消耗品費に含めて使用する。例えば、試薬あるいはSTM探針などの消耗品として使用する計画である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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巻: 29 ページ: 659-662
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