研究課題/領域番号 |
26400347
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
李 徳新 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40281985)
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研究分担者 |
本間 佳哉 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00260448)
山村 朝雄 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20281983)
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
本多 史憲 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (90391268)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピングラス / 量子臨界状態 / フラストレーション効果 / f電子系化合物 |
研究実績の概要 |
本研究は、NMAD構造を持つUとCe化合物を主なターゲットにして、外場の制御により、スピングラス現象の誘起・消失の制御を実現すると共に、絶対零度でスピングラス相転移が起こるいわゆるスピングラス量子臨界物質を探索する。我々は既にU2Pd1+xSi3-x系の11種類化合物の多結晶或は単結晶試料を育成し、組成パラメーター xの変化により、この系物質のスピンフラストレーション状態の制御効果を調べた。基礎物性の測定結果、-0.3<x<0.3範囲内のU2Pd1+xSi3-xにスピングラス挙動が観測され、明確なフラストレーション効果の存在が確認された。交流磁化率の解析により、スピングラス状態を評価するスピングラス転移温度Tf、Tfの周波数変化率dTf、平均励起エネルギーEaなど動力学パラメーターはxの変化により規則的に変化する。特に、xは-0.3から0まで変化するとdTfは急速的に減少する。xは0から0.2まで増加するとdTfはゆっくりと減少し、x>0.2の範囲でdTfはほとんど変わらない。なお、xの減少を伴う、スピングラス転移温度Tfはx=0.3の20.7Kからx=-0.3の3.3Kまで降し、x=-0.4近傍でスピングラス転移は絶対零度に近づくことが推測できる。一方、典型的なスピングラス物質Ce2CuSi3の単結晶を用いて、外部磁場によりスピンフラストレーション状態の制御効果を調べた。外部磁場Hの増加に伴い、Ce2CuSi3のスピングラス転移温度Tfはゼロ磁場の2.07KからH=170 Oeの1.8Kまで降下する。H=1.6kOe近傍でTfは絶対零度に近づくことが推測できる。また、新規物質として、多数2:3:5系および1:1:1系ウラン金属間化合物の単結晶あるいは多結晶を育成し、物性測定を行った。そのなか、URh1-xIrxGe系物質における強磁性と反強磁性の競争に起因するスピンフラストレーション効果、U2Ru3Ge5におけるスピンのランダム凍結などフラストレーション現象が観測された。現在、実験装置の整備作業を進めており、極低温までの物性測定を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
f電子系スピングラス物質は、近藤効果やRKKY相互作用に加え顕著なフラストレーション効果を持ち、フラストレーションによる量子臨界現象を研究する上で最良の物質群と言える。しかし、スピングラス挙動に関する極低温までの研究例が少なく、第三種磁気秩序と呼ばれるスピングラスの量子臨界物質は今まで発見されていない。本研究では、NMAD構造を持つUおよびCe化合物を主なターゲットにして、外場の制御により、スピングラス現象の誘起・消失の制御を実現する。更に、スピングラス量子臨界物質の探索およびスピングラス量子臨界物質特有な新奇臨界磁性の発見を目指す。これまでの研究により、U2Pd1+xSi3-x系におけるスピンフラストレーション状態の元素(組成)制御効果、Ce2CuSi3におけるスピンフラストレーション状態の磁場制御効果を確認した。スピングラス状態を評価する動力学パラメーターの変化の規則性を明らかにした。スピングラス量子臨界物質の探索として、有望な結果が得られた。また、新規物質U2Ru3Ge5およびURh1-xIrxGe系物質における低温スピンフラストレーション状態の形成が確認した。詳細な構造解析、物性分析、外場制御効果の評価など更なる研究が進行中である。これまでの研究は計画に従って順調に進展している。最近、大洗センターにはPPMSなど物性測定装置を導入し、0.5 Kまでの電気抵抗と比熱の測定が可能になった。現在、上述した物質の物性測定が極低温まで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、x=-0.4のU2Pd1+xSi3-x(U2Pd1.4Si2.6)及びH~1.6 kOeの磁場中のCe2CuSi3は絶対零度の近傍でスピングラス転移が発生する可能性が高い。有望なスピングラス量子臨界物質として、これからこの二つ物質の極低温までの物性測定を行う。一方、新物質の開発、特にスピングラス量子臨界物質の発見は、とにかく多数の高品質試料の育成を試みるということが必要不可欠である。H28年度以後にU2T1+xX3-xとCe2T1+xX3-x(T=遷移金属; X=Si, Ga, Ge)系、URh1-xIrxGeとURh1-x(Ru,Co)xGe系および2:3:5系未知物質の探索と既知物質の単結晶育成に挑戦する。磁場や圧力など外場を変化させ、各物理条件下で得られた結晶の電気抵抗、比熱、AC/DC磁化率など基礎物性を極低温まで測定する。特に、交流磁化率の動力学解析を行い、スピングラス転移温度、動力学臨界指数、平均励起エネルギーなどスピンフラストレーション状態を特徴づけるパラメーターを決める。また、量子臨界状態を達成する有望な物質に対して、その量子臨界点近傍での電気抵抗や比熱、磁化率の温度依存性、電子比熱係数などを求め、外場制御によってフラストレーション状態の変化、特に、スピングラス量子臨界状態の誘起過程を観測する。スピングラス量子臨界物質の探索と共に、その量子臨界点近傍で新たな磁気挙動の発見を目指す。必要であれば,中性子散乱およびNMR測定を通じて研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料作製用金属原料など消耗品の一部は大洗センターの運営費で購入したので、科研費の使用額は17万円程度減った。
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次年度使用額の使用計画 |
試料作製用金属原料など消耗品の購入費として、H28年度中に使用する。
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