研究課題/領域番号 |
26400350
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡 隆史 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50421847)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 非平衡物理 / 数値計算 / 学際的研究 |
研究実績の概要 |
(a-1) 電子格子結合:強い電場によって駆動された電子系の長時間での振る舞いを理解するためにはフォノンとの結合による緩和現象を考慮する必要がある。フォノンの効果を理論モデルに取り込むことは一般には容易ではない。まず、初年度は電子相関を無視した電子・フォノン系におけるフォノン緩和の問題をニューヨーク大学のA. Mitra教授らとともに研究した。特に、二次元ディラック電子系やグラフェンを対象として、円偏光レーザーの連続照射によって実現する非平衡電子分布に着目した。フロッケの方法とマスター方程式を組み合わせた手法を援用し、光誘起ホール効果の量子化の問題を解析し結果を2編の論文にまとめた。 (a-2) 磁性の光制御:レーザーを磁性体に照射することで新たな量子多体状態を実現する方法を探ることも本課題の目標である。この目標に向け、佐藤(青学)、S. Takayoshi (NIMS)とともに量子スピン模型の解析を行い、結果を論文にまとめ投稿した。 時間依存FLEXコードの完成:ハバードモデルに代表される強相関模型の時間発展を調べるために揺らぎ交換近似(FLEX)に基づくアプローチは有効である。この計算を行うfortranコードを完成させることは平成26年度の目標であったが、平成27年5月現在も継続中である。 その他(ハドロン、素粒子物理との比較):同じく強相関系であるハドロン(QCD)の研究者との協力による学際研究を始めたが、これは予想外に大きな成果があった。物性分野で知られている励起子モット転移の概念がハドロン相の崩壊(~ハゲドロン転移)を理解するのに有効であることが示された。関連論文を6本投稿した(2本出版済み、2本アクセプト)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハドロン物理の理論家との学際的研究は予想外の進展を見せている。一方で、予想していたこととはいえ数値計算はコードの複雑さのためまだ完成をしていない。次に各項目ごとに達成度を説明する。 (a-1) 電子格子結合:マスター方程式を通じたフォノン緩和は大変有効な研究手法であることが分かった。特にフロッケ状態の非平衡定常状態の計算においては現在最強の手法といえる。一方、電子相関がある場合にはグリーン関数法との併用が不可欠であり、これが今後の課題となる。 (a-2) 磁性の光制御:量子磁性体をレーザーで制御する可能性について理論的に調べたが、かなり強力なレーザーを照射すれば反強磁性体を含めて自由にコントロールすることができると結論づけた。 時間依存FLEXコードの完成:繰り返しになるが、ハバードモデルに代表される強相関模型の時間発展を調べるために揺らぎ交換近似(FLEX)に基づくアプローチは有効である。この計算を行うfortranコードを完成させることは平成26年度の目標であったが、平成27年5月現在も継続中である。この点において達成度は低くなる。 その他(ハドロン、素粒子物理との比較):ハドロン(QCD)の研究者との協力による学際研究を始めた。まず、新しい非平衡のシミュレーション方法である確率量子化法を場の理論模型に適用した。また、ゲージ・重力対応による「強相関系の非平衡ダイナミクス」の研究を橋本(阪大)らと継続しているが、物性分野の概念(励起子モット転移)と素粒子分野の概念の間に「辞書」ができはじめた。これを元に両分野の研究を俯瞰すると新しい見方が可能になりとても興味深く感じている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は早期に時間依存揺らぎ交換法のプログラムを完成させる。また、今後は実験グループとの協力により現実的な設定に基づいた研究を開始する。具体的にはCa2RuO4の電場下の非線形伝導現象について精力的が実験を行われており、VO2と比較して劇的に小さいしきい値電場で相転移することが分かっている。この謎を解明するため、この系の特徴である多軌道性、格子ひずみを加味した理論解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに研究遂行のための予算を使用したが、少額の余剰資金を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
第2年度に予定されている支出に組み込んで使用していく。
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