最終年度となる2016年度においては主にレーザーによって駆動された強相関物質において生じるエキゾチックな量子現象について理論的に調べた。特に「超高速スピントロニクス」とよばれる、レーザーを用いてスピン流を駆動する現象に関しては新しいメカニズムを提案することができた。具体的にはスピン軌道相互作用などに起因して強い電場・スピン結合を有する物質(マルチフェロ)において、レーザーを照射することで可能なDM相互作用の制御を通じてスピンを「ひねる」ことができる。この「ひねり」をうまく空間的に制御するとスピン流が流れるのである。本研究内容はPhys. Rev.Lett.誌に公表された。 そのほか、電子が強いクーロン力によって動きが凍結されているモット絶縁体において、円偏光レーザーを照射するとスピンのスカラーカイラリティを誘起できることも分かった。スカラーカイラリティはスピン版のトポロジカル状態を誘起するのに重要な役割を果たす秩序であり、時間反転対称性が破れていることが特徴である。光学過程としては逆ファラデー効果と同じ次数(電場の2次)の現象であるので、実験的には既存のプラットホームで実証が可能な効果である。もうひとつの重要な成果は光誘起ワイルフェルミオンの発見と理論的な理解である。これは3次元ディラック物質にレーザーを照射することで実現されるトポロジカル状態である。また、これらの研究成果を国際会議にて発表し、広く周知することもできた。
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