研究課題/領域番号 |
26400351
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
古川 はづき お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (70281649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 空間反転対称性の破れた超伝導体 / 中性子散乱法 / ヘリカル磁束状態 |
研究実績の概要 |
空間反転対称性の破れた超伝導体の特徴は、従来型の超伝導体で電子対がパウリの原理からスピン一重項か三重項どちらか一方の状態しかとれないのに対し、「両者が混成した新しい量子状態が実現すること」、さらに第2種超伝導体の場合、渦糸のまわりの渦電流により渦巻き型の磁気モーメントが誘起される「ヘリカル渦糸状態と呼ばれる特異な磁束状態が発生すること」の2点である。ヘリカル渦糸状態では、ゼーマン効果によりフェルミ面の重心のシフトが起こり、クーパーペアがズレのベクトルをqとして、kと-k+qの電子間で形成されるが、これは強いパウリ常磁性効果によりフェルミ面の重心がずれるために実現するFulde-Ferrell-Larkin- Ovchinnikov(FFLO)状態と同様の状態であり、超伝導の秩序変数が空間変調した渦糸状態の出現が期待される。しかも、FFLO 状態が低温+強磁場という極限領域でしか実現しないのに対し、ヘリカル磁束相は超伝導転移温度以下のすべての磁束状態で実現する。このことは、FFLO相の実証実験では不可能であった磁束格子の散乱強度が強い低温+弱磁場領域での実験が可能であることを意図する。これまでにヘリカル磁束相の観測成功例は存在しない。そこで、我々は空間反転対称性の破れた超伝導体について『ヘリカル磁束相の初観測』と『その特徴の解明』を目的とする研究を開始、平成26年度は、良質な単結晶試料育成条件の確立および中性子小角回折実験を計画した。しかし、12月に予定していたドイツミュンヘンのHeinz Maier-Leibnitz Zentrumの中性子小角散乱装置SANS-Iを利用した実験が、冷凍機の故障のため直前にキャンセルとなった。そこで磁化測定装置や抵抗・比熱測定装置、および、ラウエ回折装置を使った作成試料の検定や、また、より高質な単結晶試料育成条件の探索等を行うにとどまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年12月にドイツミュンヘンのHeinz Maier-Leibnitz Zentrum(通称MLZ)に設置されているミュンヘン工科大学とHelmholtz-Zentrum Geesthachtの共同プロジェクトである中性子小角散乱装置SANS-Iを利用した磁束観測実験を予定していたが、出発直前に利用予定の冷凍機が故障し、実験が平成27年7月末へ延期されたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、平成26年度に実施予定であった中性子小角散乱実験を行い「空間反転対称性の破れた超伝導体における磁束格子観測」に挑戦、また、超格子反射の観測による「ヘリカル磁束相の存在実証」に挑戦します。また、CePt3Si、あるいは、LaNiC2の単結晶試料について、磁気的揺らぎの存在とその揺らぎの超伝導の発現機構への寄与について中性子非弾性散乱法を用いた研究を開始します。また、これらについて得られた研究成果を国内国際学会等で随時発表し、論文発表へとまとめていきます。一方で、単結晶作成が困難とされるLi2(Pd,Pt)3Bの試料作成についても継続的に挑戦します。そして、結晶が得られるようになった時点で、一重項三重項混成状態の特異性について研究を開始します。 平成28年度については、平成26~27年度の研究成果について、随時研究発表(国内国際学会)を行い、論文発表へとまとめます。さらに、平成27年度に精力的に挑戦するLi2(Pd,Pt)3Bの試料作成から得られた試料を用いて一重項三重項混成状態の特異性について研究を行い、結果を取りまとめ、成果を発表します。
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