研究課題
空間反転対称性の破れた超伝導体は、①スピン一重項と三重項状態の混成が可能となること、また第2種超伝導体の場合は、さらに、②ヘリカル渦糸状態と呼ばれる、渦電流により渦糸のまわりに渦巻き型の磁気モーメントが誘起される特異な磁束状態が発生すること、を特徴とする。特に、ヘリカル渦糸状態は、強いパウリ常磁性効果を持つ超伝導体に実現するFulde-Ferrell-Larkin- Ovchinnikov(FFLO)状態と同様、超伝導の秩序変数が空間変調した渦糸状態であり、その点でも注目度が高い。しかし、これまでにヘリカル磁束相の観測成功例は存在しない。これに対し、我々は空間反転対称性の破れた超伝導体について『ヘリカル磁束相の初観測』と『その特徴の解明』を目的とする研究を行っている。平成27年度は、LaNiC2にターゲットを絞り、フローティングゾーン法による単結晶試料の育成、磁化測定による超伝導特性の観測を経て、中性子小角回折実験によるヘリカル磁束相観測の基となる混合相における基本磁束格子の観測に挑戦した。中性子実験の施設は、ドイツミュンヘンのHeinz Maier-Leibnitz Zentrumの中性子小角散乱装置SANS-Iである。結果、磁束格子からの明確な磁気ブラッグ散乱は観測されなかった。この結果の原因についての考察は次のコラムで述べるが、平成28年度はこの考察に基づき、研究方針を再構築し、研究推進を実行する予定である。
3: やや遅れている
磁束格子からの明確な磁気ブラッグ散乱が観測されなかった理由として、磁化測定で超伝導転移が明確に観測される単結晶試料であるが空間反転対称性の破れた物質としての結晶の完成度が低く磁束格子に乱れが生じ中性子磁気ブラッグ散乱が起こらなかった、あるいは、そもそも論としてこの物質の超伝導特性の一つである磁場侵入長が長いことでコヒーレンスな磁束格子は存在しているが磁気散乱強度が極端に弱く装置の測定限界を超えていたことが考えられる。これに対して、人間ができる対策は1つ。空間反転対称性の破れた物質としての結晶のモザイクの完成度を極限まで整え、それを持って再び中性子回折実験に挑戦をすることである。平成28年度はこれを実行することを計画している。
平成28年度は、空間反転のモザイクを極限まで整えたLaNiC2の単結晶試料の作成から研究に再挑戦する。具体的には、これまで「明確な超伝導転移を示す単結晶試料を作成する」と言うレベルではLaNiC2の単結晶育成は他の物質と比較して容易であるが、ある特定の方向に空間反転対称性が敗れるという結晶構造の不安定を抱えていることを鑑み、その完成度を上げるために、①結晶成長の速度を一桁落とし1mm/h以下にする、また、さらに不純物を減らすために②原材料の純度を一桁あげるなどの対策を行う。その後、できた試料について、磁化・電気抵抗・比熱等の基礎物理量の測定とX線よる結晶性の確認を行い、改善が確認されれば中性子回折実験を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
PHYSICAL REVIEW
巻: B93 ページ: 104527-1~8
10.1103/PhysRevB.93.104527