研究実績の概要 |
遷移金属カルコゲナイドTa2NiSe5はTa2Ni鎖の擬一次元構造をもつナローギャップ半導体で、常圧では328Kにおいて斜方晶系から単斜晶系へ構造相転移を示す。角度分解光電子分光により、転移温度以下で価電子バンド上端の平坦化が観測され、構造相転移の起源が励起子絶縁体である可能性が議論されている。Ta2NiSe5は加圧により半金属的になり、構造相転移は抑制され約8GPaで消失するが、その近傍で超伝導が発見され、超伝導との関連からも圧力下の電子状態が注目されている。昨年度は、Ni由来の価電子(f)バンドと2 重に縮退したTa由来の伝導(c)バンドからなる3 鎖ハバード模型の励起子状態をBCS型平均場近似の範囲で調べ、高圧側の半金属領域では、cバンドとfバンドの縮重度の違いにより必然的に生じるフェルミ面の差に起因して、有限の重心運動量Qをもつ励起子が凝縮したFFLO励起子秩序が実現することを明らかにした。 今年度は、鎖間トランスファーを考慮したより現実的な2次元3鎖ハバード模型に基づいて、励起子秩序と超伝導を平均場近似および乱雑位相近似とエリアシュベルグ方程式を用いて調べた。2次元模型では、FFLO励起子秩序は1次元模型に比べて若干抑制されるものの安定に存在する。また、1 次元模型と同様の(Qx,Qy)=(Q,0)のFFLO励起子秩序に加えて、(Qx,Qy)=(Q,π)の FFLO 励起子秩序も実現する。一方、励起子転移温度以上の正常状態における励起子揺らぎ(電荷揺らぎのc-f非対角成分)は、c-fバンド間のネスティングに対応する波数Qで鋭いピークをもち、励起子転移温度に向けて発散的に増大する。この励起子揺らぎを媒介とする有効引力相互作用もQで鋭いピークをもつため、励起子相の近傍で実現する超伝導は、c-f電子間のクーパー対が重心運動量QをもつFFLO超伝導となることが分かった。
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