研究課題/領域番号 |
26400355
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴村 順三 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (90108449)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ディラック電子 / 有機導体 / トポロジー / 単一成分分子性導体 / ゼロギャップ状態 |
研究実績の概要 |
有機導体のディラック点を、ホッピングパラメータが構成する三角格子のパターンから調べ、強束縛模型におけるエネルギーバンドの一般的観点からこのディラック電子の位置づけを明らかにした。α型有機導体では8個の分子間移動エネルギーが存在する。この符号の組合わせのパターンにより16個の異なるさまざまなバンドが生じる。α-(BETS-TSF)2I3(ET)でディラック電子が出現する状況では、通常の金属状態とは異なる特別の状況になっていることをを示した。このような分子の重なり積分の特徴を考慮することにより、ディラック電子の物質合成に有益になると期待される。このパターンの中でディラック電子を最も安定に出現させる組み合わせを見つけた。直接このような物質合成は困難であるが、将来的には有益な情報となる。たとえば、移動エネルギーを変化させ、分子の積層方向とそれに垂直方向の特定の組による三角格子のトポロジカルな性質がディラック電子に重要な役割を果たしていると期待できる。さらに、ETにおける垂直磁場下での電気伝導の温度依存性を説明した。この成果を踏まえて、HOMO軌道とLUMO軌道から構成される[Pd(dddt)2]塩の分子性導体で見つかっているディラック電子を調べた。単位胞が4個の分子から構成され、各分子でHOMO軌道とLUMO軌道が存在し、その波動関数の対称性が異なることが本質的である。これを運動量の時間反転対称点における偶奇性によるディラック点存在条件に適用し、ETと共通していることを示した。。今後ディラック電子を出現させる分子性結晶合成の際、その解析の指針となることが期待される。この成果を学会等で発表し、現在論文投稿の準備中である。一方この研究は、これまで偶然の縮退と考えられてきたETのディラック点について、その原因を明らかにすることができた(2016年度出版予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディラック点の存在は、 ベリー位相等の電子の波動関数のトポロジカルな性質に反映される。このような物質合成に有益となる、ホッピングパラメータが構成する三角格子のパターンを明らかにした。ディラック点の存在条件、「運動量の時間反転対称点における偶奇性」をET塩について示したが、これが一般的であることを別の物質である[Pd(dddt)2]単一成分分子性導体のディラック点についても成立することを示した。これにより得られたHOMO-LUMO相互作用の役割の理解は、ET塩のディラック点出現の解明に貢献した。 運動量空間の時間反転対称点の固有値を用いて有効ハミルトニアンを導出しこれによりディラック点を直接計算できる手法を得ることに成功した。これを論文にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
この研究で開始した単一成分分子性導体[Pd(dddt)2]は、ディラック電子を示す2番目の物質として、今後の研究の発展が期待される。今回、ET塩との相補的な研究はディラック電子出現の解明に向かって大きく前進した。このディラック点は3次元運動量空間で閉じた曲線を描くことは、今回の物質で見つかった注目される特徴である。この原因解明のためHOMO-LUMO相互作用の役割を研究し、偶奇性に基づくトポロジカルな性質を明らかにする。これまでは主に分子間伝導の性質を調べてきたが、さらに、電子相関の役割を調べる。この物質ではクーロン相互作用の遮蔽が小さいので、長距離相互作用の磁気的性質への効果を調べる。特にこれまでの謎である、磁化率の温度依存性の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、解析的定式化と数値計算研究計画に基づいて相補的に行うが、この研究に関連して予想しなかった興味深い問題が出てきた。この詳細な数値計算を次年度に実施するためその予算を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
補助金の27年度の未使用分については、次年度の補助金と合わせて、計算機の維持費、情報収集および研究討論の旅費、論文投稿費用等に使用する。
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