研究実績の概要 |
本研究課題では、銅酸化物高温超伝導の発現機構の解明に向け、ミクロな観点から電子状態を明らかにできる核磁気共鳴実験手法を用いて、乱れのない理想的な銅酸素面を有する超多層型構造をもつ銅酸化物における層毎の電子状態を調べ、キャリアがドープされたモット絶縁体近傍の強相関金属状態の新しい量子物質相の解明を目指している。 27年度は、Tl1256(Tc=100K)、Hg1256(Tc=103K,98K,93K)、のドープ量の異なる4つの六層型銅酸化物の試料に対して、高温域まで十分なNMR信号強度が期待できる、電荷供給層に位置している核(Tl, Hg) においてNMR を行った。 Tl 系の試料においては、NMR 線幅(FWHM) とT_1 測定から明確にT_N を決定できた。NMR線幅(FWHM) は、170 K 以下で反強磁性秩序による増大が見られた。また、1/T_1T の温度変化の極大点と対応しており、T_N 以下で反強磁性が試料全体で均一に起こっていることが分かった。 さらにHg 系の六層型試料においても、低温におけるスペクトルの線幅の増大から磁気秩序の形成を確認でき、ここからT_N を見積もることができた。ドープ量とT_N の関係から六層型の相図を作成すると、反強磁性相が五層型の場合と比べてさらに高ドープ側に張り出していることがわかった。以上の実験から、T_N を決定する重要な要素として面間の磁気結合が関係していることを結論することができた。
|