研究課題/領域番号 |
26400361
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
後藤 秀徳 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (90322669)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / イオン液体 / 電気二重層 / キャリア蓄積 / 分子吸着 / 自己組織化単分子膜 / 電子移動 / バンド制御 |
研究実績の概要 |
イオン液体の電気二重層をゲート電極とする電界効果トランジスタには高濃度のキャリアを蓄積できる利点がある。しかし単層~数層グラフェンでは状態密度が小さいことおよびその層状構造のために、効果的なキャリア蓄積ができないことを報告した。高濃度のキャリアが蓄積したグラフェンは、伝導率が増加し電極やキャパシタ材料としての利用範囲が広まるだけでなく、van-Hove点における電子相関と秩序状態を研究するための極めて興味深い研究対象となる。そこでイオン液体に替えて、分子吸着によるキャリア蓄積を試みた。前年度おこなった電子受容性分子に続いて、電子供与性分子を用いてグラフェンへの電子蓄積を定量的に評価した。その結果、電子移動がおこるためには分子のHOMO準位がグラフェンのフェルミエネルギーよりも高いことが必要であるが、このエネルギー差はグラフェンへの電子蓄積とともに小さくなり電子移動が抑制されるという電子移動モデルを実証できた。この結果は状態密度が小さいグラフェンへのキャリア蓄積は本質的に困難であり、van-Hove点における新規物性の発現のためにはエネルギーバンドの構造を変化させるなどの手段が必要であることを示している。 分子によるエネルギーバンド制御の可能性を探るために、自己組織化単分子膜(SAMs)上にグラフェンを作製し、下層からのキャリア蓄積をおこなった。SAMsの末端基を選択することで、CF3基の場合はホールを、CH3基、NH2基の場合は電子を蓄積できることを確認した。続いて、分子吸着とSAMsとを用いて数層グラフェンの上下層からキャリア蓄積を行い、層の対称性を破ることで伝導特性が変化することを観測した。分子がつくる微視的な電場は、固体ゲートによる静電場と異なり空間的・時間的に変化しうるため、グラフェン―分子間の電子移動を利用して微視的に電子状態を制御できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフェンにキャリアを蓄積させる方法として、吸着分子を用いる方法とイオン液体ゲートによる電界効果の方法とでは電子移動を伴うか否かの相違がある。分子とグラフェン間の電子移動の基本原理を明らかにしたことで、電子移動量すなわちキャリア蓄積量を定量的に評価する指針を得た。この結果は、グラフェン―分子複合系における新しい物性出現の探索と、グラフェンを基礎とする分子エレクトロニクスの展開に有意義である。また、本研究で行った議論は、グラフェンだけではなく半導体や一般の物質と分子間においても普遍的に成立するので、物理学・化学・生物学・工学等、様々な分野における電子移動が関わる現象に適用できると期待される。 グラフェンと分子の複合系の研究をさらに展開し、数層グラフェンの上下層から分子を用いてキャリアを蓄積することで電子状態を制御する試みを行った。現時点では、分子と電界効果による2つのキャリア蓄積の方法の相違を明らかにする結果が得られている。これは、分子からの電子移動を利用して電界効果とは異なる伝導制御ができることを意味し、新しい分子エレクトロニクスの開拓が期待される。 並行して、イオン液体ゲート印加の方法をグラフェン以外の物質、有機分子単結晶薄膜や無機層状物質を活性層とするFETへ適用し、これらの物質にキャリアを蓄積する有効な手段であることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
イオン液体による微小ゲートを用いて、グラフェン特有のエネルギーバンド構造に由来する電子散乱効果を調べる。グラフェンのpn接合における散乱は相対論的量子力学における粒子・反粒子散乱に関連する興味深い研究対象である。すでにフォトリソグラフィーを用いて試料を作製し予備実験を行ったが、確定的な結果は得られなかった。これを解決するために、グラフェン内のキャリアの散乱長よりもゲート構造を小さくし、散乱効果が電気抵抗に顕著に反映するように工夫する。平成27年に岡山大学の共通利用機器として電子線リソグラフィー装置が導入されたので、これを利用してグラフェン上のレジストに100nm未満の微小構造を作製する。イオン液体は微小な領域にも浸透して電気二重層のゲート構造を形成できるので、ここにイオン液体ゲートを印加し微小pn接合を作製する。 前年度の主要な研究成果であるグラフェンと分子の複合系については、SAMsと吸着分子によるグラフェンの電子状態制御を継続して研究する。最終的には、通常の固体ゲートを用いた電界効果では実現できない、分子の特徴(サイズの小ささや状態変化の速さ)を利用した伝導制御を行うことを目的とする。 並行して、グラフェン以外の層状物質に対してもイオン液体を用いた高濃度キャリア蓄積と垂直電場印加の方法によって、物性変化の観測を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額の残余が生じたが、年度内に少額物品を購入するよりも、次年度の物品購入に追加するほうが有効活用できると考えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
試料作製のための消耗品を購入する。
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