研究課題/領域番号 |
26400362
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
近藤 隆祐 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (60302824)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電荷密度波 / 希土類化合物 |
研究実績の概要 |
希土類化合物 RNiC2 系は、d 電子を主成分とする低次元伝導電子系上に形成された電荷密度波(CDW)と、希土類原子上の4f 電子からなる局在スピンとの間に強い相互作用が働くという特徴をもつ物質群である.本研究では、良質の単結晶を用いて,電荷・スピン・格子の交差物性の精密な測定を行い、RNiC2系におけるCDWと局在スピン間に働く相互作用機構を明らかにすることを目的としている. 初年度は,一連のRNiC2の良質単結晶試料の作成・測定を行い,CDWの有無と,磁気秩序形成時における電気抵抗変化及び4f 電子からなる局在スピンの磁気秩序形成時のCDWの振る舞いを明らかにした.更に,RNiC2(R=Ce, Nd, Sm)について,磁化測定とホール効果測定を行い,測定結果が,磁化が物質内部に作る有効磁場が外部磁場と足しあわせて作用するモデルで定性的に説明は出来るものの,その定量性には問題があることを明らかにした. 二年目は,局在スピンを外部磁場で制御した時にCDWに生じる変化を調べる目的で,一年目に設計を行った磁場中X線測定用のクライオスタットを完成させ,運用を開始した.出来上がった装置は,試料取り付け部において最低到達温度2.9Kに到達し,RNiC2系の研究に対して,十分な低温を実現出来た.超格子の有無だけでなく,結晶の向きをより精密な制御して測定を行うために,試料取り付け治具を改良し,同時に,試料の向きに応じて,どのようなパターンの写真が取れるのかのシミュレーションを行うソフトウェアも開発した. 本装置の主な測定対象をRNiC2(R=Nd, Dy)に絞って試料作成を進めたが,この過程で,単結晶を,従来の双晶を割って取り出していた方法から,薬品で溶かしだす方法に改良したことにより,より損傷の少ない単結晶を得ることが出来るようになった.これにより,複数のCDWが温度に依って出現・消滅するYNiC2について,単結晶構造解析が可能なレベルのデータが取得出来た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来であれば,結果が得られているはずのところであるが,得られていないので,遅れているとした.原因は,クライオスタットのベリリム窓からの真空漏れと溶接不良箇所の存在である.本研究で開発した磁場中X線測定用のクライオスタットは,X線の取り出し窓として極薄のBe板(t0.3mm)を使用しているが,この板が真空に対して耐え切れず,ドーム状に変形することが見出された.これほどの薄い板を用いたのは,窓から発生するノイズはその厚さに依存するからであるが,場合によっては,より厚いBe板への変更によって対処する.溶接不良箇所は装置設置方向に対する強度不足が原因のため,これについては補強を完了した.いずれも本質的困難ではない.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度は,やや遅れている,としたものの,本質的な困難ではないため,基本方針に大きな変更はない.磁場中X線クライオスタットは現在運用を開始しており,遠からず,RNiC2(R=Nd, Dy)について,外部磁場によって試料中の局在スピンを変化させた時に,電荷密度波がどのような応答を示すのかについて,結果が得られると考えている. RNiC2系は,結晶構造の観点から見て,R原子の電子が,その結晶のマクロ的性質,磁性と伝導,両方に関わっているため,その寄与の効果がわかりにくい.このため,RNiC2系だけを調べるのではなく,他物質系への展開を試みることを検討している.種々の物質を検討した結果,I)伝導バンドにCDWが形成されること,II)Rを含んで局在スピンを持つもの,III)所持している装置を利用して作成が可能な物質系として,RTe2,RTe3(纏めて,RTen(n=2,3)系と略す)を選び,試料作成を試みている.この物質系は,磁気秩序形成TN=4.3Kに伴い,CDW-gapが変化していることが報告されている(M.H.Jung et al. PRB63, 035101)が,当時は,本研究で開発したような磁場中X線測定装置がなかったため,研究は進展していない. RTen(n=2,3)系とRNiC2との比較・検討によって,磁気秩序とCDWの相互作用について,新しい知見を得ることが期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
磁石を冷却している冷凍機のメンテナンス期限が迫っていること,二年度末に老朽化した電気炉が破損したこと,の二点により,これらのメンテナンス及び修理が最終年度にずれ込んだため.
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次年度使用額の使用計画 |
本質的な使用計画の変更はない.冷凍機は新年度に入って一月程度でメンテンナンスが必要となる.また,炉については,修理が不可ならば新規購入を検討する.
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