研究実績の概要 |
近藤半導体CeT2Al10 (T = Ru, Os)がTN = 28 Kという異常に高い温度で反強磁性秩序する原因を明らかにするために,計画した下記の実験を行った。その結果を総合して,5d-4f混成が混成ギャップ形成と引き続いて起こる特異な反強磁性秩序の主因であると提案する。 高畠敏郎と梅尾和則(連携研究者)は大学院生とともにCeOs2Al10に5d正孔と5d電子をドープした単結晶の輸送特性と磁性を測定した。正孔ドープで価数揺動領域に,電子ドープで近藤領域に移ることを確認し,前者の方が,混成ギャップとTNの消失が低濃度で起こることを見出した。中性子散乱実験を研究協力者D.T. Adrojaが行い,正孔ドープでは磁気モーメントがc軸方向を向いたまま縮むが,電子ドープではc軸からa軸方向にフリップして伸びるとともにスピンギャップが消失することを見出した。浴野稔一(連携研究者)は大学院生とCeT2Al10 (T = Fe, Os)の破断接合トンネル分光法測定を行い,T=Feでの2段のギャップに加えてT=Osでは更にTN以下で反強磁性ギャップが開くことを見出した。これらのギャップの大きさと温度変化に異方性は確認されなかった。横谷尚睦 (連携研究者)はCeT2Al10 (T = Fe, Os, Ru)の高分解能光電子分光で単結晶試料のフェルミ準位近傍の状態密度の温度変化を測定し,2段ギャップ構造とその温度変化を明らかにした。研究協力者のA. SeveringはCe 3d X線光電子分光でc-f混成強度を定量的に求め,Fe, Os, Ruの順で混成が弱くなることを明確に示した。木村真一 (連携研究者)は偏光反射分光により,CeOs2Al10ではb軸方向のみで40 K以下において観測されたCDW的ギャップが,電子・正孔ドープによって急激に潰れることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Ce近藤半導体のCeT2Al10 (T = Ru, Os)が何故28Kという高温で反強磁性するのかという問題を解決するために,計画した研究を予定以上のスピードで実施し,4f-5d混成が主因であるという新しい知見を得た。特に,破断接合トンネル分光実験では,混成ギャップと反強磁性ギャップの大きさと温度変化は異方性を示さないことが判った。T=Feでの2段ギャップの温度変化は,横谷尚睦らの光電子分光の結果と対応しているが,T=OsではTNより低温の20Kで新しいギャップが形成されることを発見した。中性子回折・散乱の実験からは,CeOs2Al10磁気モーメントは,5d正孔ドープではc軸方向を向いたまま縮むが,5d電子ドープではc軸からa軸方向にフリップして伸びるとともに,スピンギャップが消失することを見出した。これらは既にPhys. Rev. Bに2編の論文として掲載された。CeT2Al10 (T =Fe, Ru, Os)のc-f混成強度と4f電子数の絶対値をCe3d内殻光電子分光実験で決定できた。これらの成果について,国際会議で発表するとともに,著名な理論家と議論し,バンド構造に即したc-f混成ギャップをベースとしたモデルの確立を要請した。一軸圧によってc-f混成を異方的制御して磁化と比熱を測定するシステムが梅尾和則によって作製され,いよいよその実験が開始される。
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