研究課題/領域番号 |
26400370
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
赤星 大介 東邦大学, 理学部, 准教授 (90407354)
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研究分担者 |
桑原 英樹 上智大学, 理工学部, 教授 (90306986)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強相関系 / マルチフェロイックス / ペロブスカイト型酸化物 |
研究実績の概要 |
EuTiO3は磁気的性質と誘電的性質が強く結合した物質であるため、基礎・応用の観点から注目されている。申請者は最近の研究で、EuTiO3のTiの10%程度をAl、Gaで置換することで(組成式:EuTi1-xAlxO3, EuTi1-xGaxO3 (以下ETAO、ETGO))、基底状態が反強磁性絶縁体からEu2+、Eu3+の混合原子価状態を持つ強磁性絶縁体に転移することを明らかにした。この強磁性絶縁体相は巨大電気磁気効果の発現に重要な役割を果たす可能性がある。また、Euの混合原子価は電気・磁気特性に興味深い効果を及ぼすことが期待される。しかし、通常の固相反応法ではAl、Gaの置換量がx = 0.1程度までのETAO、ETGO試料しか作成できなかったため、これらの系の詳細な電気・磁気特性については不明である。本研究の課題は、x > 0.1の組成を持つETAO、ETGO試料を作成し、その電気・磁気特性を明らかにすることである。 平成26年度の研究成果は以下の通りである。 1、管状炉を利用した固相反応法とアーク炉を組み合わせることで、0.1 =< x =< 0.75の組成を持つETAO試料の作成に成功した。 2、ETAO試料の磁気的性質を調べることで、その概略的な磁気相図を作成した。 xが0.10から増加すると強磁性転移温度TCは上昇し、x = 0.25付近で最も高くなる。キュリーワイス温度や磁化曲線の振る舞いも、x = 0.25付近で強磁性的相関が最も強くなることを示している。x > 0.25では、xの増加に伴い強磁性相関は弱くなっていく。これは、Al3+置換により非磁性のEu3+が増加していくためである。以上の研究成果は、平成27年度以降の目標であるEuの混合原子価が生み出す新しい電気・磁気特性の探索やETAOが示す特異な強磁性絶縁相の起源解明の第一ステップであるという点で非常に重要である。 また、上智大学と共同で浮遊帯域溶融(FZ)法によるETAOの単結晶試料の育成も試みた。その結果、ETAOの単結晶試料は得られたが、その組成の制御はまだ完全にはできていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画は、以下の通りであった。 1、0 =< x =< 1の組成範囲のETAO、ETGOの多結晶、単結晶試料の作成を行う。 2、作成したETAO、ETGO試料の磁気特性を調べ、その磁気相図を作成する “研究実績の概要”で記述したように、固相反応法とアーク炉を組み合わせることで、0 =< x =< 0.75の組成を持つETAOの多結晶試料の作成に成功している。そして、その磁化の温度依存性、磁場依存性などを調べることでETAOの磁気相図(xの間隔が粗いため、まだ概略的なものであるが)の作成まで進んでいる。また、現段階では組成の制御はまだ完全ではないが、FZ法を用いることでETAOの単結晶試料の作成にも成功している。単結晶試料の組成制御は平成27年度以降の課題である。また、ETGO試料の作成をETAO試料と同様の方法で試みたが、その作成は非常に困難であることがわかった。その原因は、Gaを含む何らかの酸化物が非常に蒸発しやすかったためである。しかし、ETAO試料の作成には成功しているので、もしETGO試料が作成できなくとも本研究課題を遂行する上では大きな問題にはならない。以上の理由より、本研究計画の進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、ETGOの試料作成は非常に困難であるため、今後はETAO試料を中心に研究を進めていく予定である。その具体的内容は以下の通りである。 1、ETAOの詳細な磁気相図を完成させる。効率的に磁気相図の作成を進めるため、多結晶のETAO試料を用いる。特に強磁性相-反強磁性相の相境界近傍(x = 0.1近傍)や強磁性相関が最も強くなる組成近傍(x = 0.25近傍)の試料作成を重点的に行う。 2、ETAOの電気・磁気特性の測定を行う。この測定は上智大学と共同で行う。強磁性相-反強磁性相の相境界(巨大電気磁気効果の可能性について検討)や強磁性が最も増大する組成付近(特異な強磁性相の起源の解明)の電気・磁気特性を重点的に調べる。また、x = 1/4、1/3、1/2といった整合的な組成においては、Eu2価、3価の電荷秩序の可能性があるので、それについても検討を行う。詳細な電気・磁気測定を行うためには、ETAOの単結晶試料が必要である。単結晶試料の作成は上智大学と共同で、以下の方法で行う。 3、FZ法を用いて、ETAOの単結晶試料の育成を行う。“研究実績の概要”で述べたように、ETAOの単結晶試料は得られたが、その組成の制御はまだ完全にはできていない。その原因は、結晶の育成中にAlが蒸発したためであると考えられる。今後は、育成した単結晶試料の組成分析を行い、その結果をフィードバックさせながら、単結晶試料の育成を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は以下の通りである。 1、平成26年度はETAO試料の作成が比較的順調に進んだため、試薬やボートなどの試料作成に必要な消耗品の使用量が当初の予定よりも少なく済んだため。 2、平成26年度に行われた年二回の学会(物理学会)の旅費を校費から支出したため。校費から旅費を支出した理由は、本研究課題に関する発表はしなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度以降はETAO試料の単結晶育成を重点的に行うので、試薬などの試料合成に必要な消耗品の消費量が前年度よりも激しくなることが予想される。そのため、これらの消耗品の購入に次年度使用額を使用する予定である。また、平成27年度以降はETAOの電気・磁気測定も重点的に行う予定であるので、物性測定に必要な寒剤(主に液体ヘリウム)の消費量が予想よりも多くなる可能性も考えられる。このような場合に、次年度使用額を寒剤の購入に使用する予定である。
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