本研究の目的は、Eu2+/Eu3+の混合原子価を持つEuTi1-xAlxO3(以下ETAO)の試料作成およびその電気・磁気測定を行い、混合原子価が電気・磁気特性に与える効果を調べることである。 固相反応法とアーク炉溶解法を用いることで、組成範囲0 = < x =< 1のETAOの多結晶試料の作成に成功した。しかし、ETAOの単結晶試料の育成にはだいぶ手間取り、研究期間の終了間近でようやく育成の目途が付いた。そのため、当初予定していたETAOの電気・磁気特性の測定を研究期間内に行うことはできなかった。 ETAOの多結晶試料の磁化測定を行い、その詳細な磁気相図を完成させた(現在論文投稿中)。x = 0(EuTiO3)の基底状態は反強磁性絶縁体であるが、Al3+を置換することで、Eu2+はEu3+に酸化され、それと同時に強磁性成分が誘起される。x = 0.10においては基底状態は強磁性絶縁体である。置換量xの増加に伴い強磁性相関はさらに強められ、x = 0.25近傍で最も強くなる。この強磁性相の発現にはEu2+/Eu3+の混合原子価が重要な役割を果たしていると考えられるが、その詳細な発現機構についてはまだ不明である。x = 0.5以上の高ドープ域では、xの増加に伴い強磁性転移温度TCはゼロに向かって減少する。この結果は、高ドープ域に強磁性量子臨界点が存在する可能性を示唆している。強磁性絶縁体相は巨大電気磁気効果の発現の重要な鍵であるので、本研究結果はEuTiO3およびこれに関連した物質の電気・磁気特性の制御に重要な知見を与えると考えられる。 最近の研究で、ETAOはEu2+/Eu3+混合原子価の電荷ダイナミクスと関係していると考えられる特異な磁化の振る舞いを示すことを見出した。この特異な磁化の振る舞いに関する研究をさらに進めていくことで、新奇な電気・磁気特性の発見が期待される。
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