研究実績の概要 |
本研究課題では、強相関f電子系における磁性の起源を電子状態から理解することを研究目的として、系統的な磁気的性質を示すUX3化合物のバンド構造とフェルミ面を角度分解光電子分光によって決定し、磁性の発現機構をU 5f電子状態から明らかにすることを目的としている。
平成28年度は、UIn3に対する共鳴光電子分光実験を中心に行った。UIn3は、これまで測定してきたUAl3, UGa3に比べて格子定数が約8%程度大きく、比較的局在的な性質を示すことが期待される反強磁性体であ。U 4d-5f共鳴光電子分光実験を詳細に行うことにより、UIn3におけるU 5f電子の部分状態密度を導出することに成功した。この結果を比較的遍歴的な性質を示すUAl3の結果と比較したところ、基本的な構造はUAl3とUIn3で似通っており、EF付近に大きな状態密度を持つものの、UIn3ではフェルミ準位から約0.5-2 eV程度深い位置に、局在したU 5f電子状態からの寄与が存在することが明らかとなった。これらの結果は、UIn3においては電子相関の効果が強いことを示しているが、電子相関効果の強さと反強磁性転移温度は相関していることから、磁性の起源としては単純にフェルミ面の構造だけではなく、電子相関の効果も重要な役割を果たしていることを示している。
これらの成果は、国内外の学術会議を通じて発表を行って、広く成果の普及を行った。特に2016年8月にテンプル大学で開催された国際ワークショップThe workshop on experiment and theory of the electronic structure of correlated f-electron materialsにおいて招待講演を行った。また、ウラン化合物の磁性を理解する上で重要なTh置換系に対する解析を進め、ThRu2Si2に対する角度分解光電子分光実験の結果についてはPhys. Rev. Bに論文投稿を行った。
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