本研究課題では電荷導入された一次元量子スピン系であるNd2-xCaxBaNiO5における電荷(ホール)と一次元鎖(ハルデン鎖)について中性子非弾性散乱によりスピン-ホールダイナミクスを観測し、導入されたホールが量子スピン鎖に与える効果を明らかにすることを目的とする。当該年度はこれまでに行ったホール濃度x=0.035およびx=0.1に加えてx=0、すなわちホールの導入されていない系における非弾性散乱実験を実施した。まずFZ法により良質な単結晶を得ることに成功し、3つの単結晶の方位を揃えた状態で試料を用意した。中性子非弾性散乱実験はJ-PARCの高分解能チョッパー分光器(HRC)を利用した。これまでに観測されたハルデンギャップ近傍を詳細に調べるための入射中性子エネルギーEi=30 meVの測定および一次元スピン鎖の励起全体を観測出来るEi=100 meVでの測定を、またそれぞれのエネルギーについて詳細な温度依存性の測定を行った。データは現在解析中であるが、一次元鎖励起状態について、ゾーン境界近傍までの非常に明瞭な動的構造の全体像を観測することに成功した。これはハルデン状態の磁気励起について完全な形で観測した初めての例である。また、ゾーン中心におけるスピンギャップの温度変化を観測し、反強磁性秩序が発達した状態にかけてそのギャップの変化の詳細をとらえることに成功した。これまでに報告した4 meVに観測された新しい励起についての温度変化も詳しく解析中である。
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