本研究の目的は,強相関電子系の示す秩序構造にともなう金属絶縁体転移やスピン状態変化転など,基本的な対称性の破れによる相転移をみせる分子性物質群を対象として,短パルスレーザー光の照射による光誘起相転移や光誘起量子ダイナミクス現象の基礎的な理論をボトムアップ的に構築することである. 本年度は,初期ダイナミクスにおける光と相互作用する電子系の結合を考慮したシミュレーションによって,実験においてより長いタイムスケールでしばしば観測され議論されるドメインの生成や広がりなどの非一様な状態変化がどのようなメカニズムによって生じているのかを,簡単化したモデルを使って明らかにし,論文発表を行った. その内容は,まず,一様な電荷秩序状態を初期状態として設定したときには,ダイナミクスは当然コヒーレントな時間発展を示し,絶縁体ギャップエネルギーを超えた励起による光ドーピング効果による秩序の不安定化のみならず,ギャップ内に特徴的な共鳴モードが存在することが判明した.これは電荷秩序状態に固有の集団励起モードであり,共鳴的に変化が大きくなることを見出した.一方で,ドメイン壁(キンク)が一つある初期状態に光を照射すると,先の共鳴モードにパルス光の周波数が近い場合に非一様性が現れ,空間的にキンク位置を種として時間とともに非一様領域が広がっていく.特に,光強度が大きいと,電荷秩序構造自体が消失した領域が,やはり時間とともに広がっていく「融解」現象が現れる.
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