研究課題/領域番号 |
26400381
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中山 恒義 北海道大学, -, 名誉教授 (80002236)
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研究分担者 |
兼下 英司 仙台高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60548212)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱電変換物質 / クラスレート化合物 / 構造ガラス / フォノン熱伝導 / ボソン・ピーク / 中性子散乱 / 非調和性 |
研究実績の概要 |
近未来の世界が遭遇するエネルギー問題に、物理学の切り口から挑戦する試みが、多くの関心を集めるようになってきた。高効率の熱電変換物質を発見する際の重要な指針は、「ガラスのようなフォノン熱伝導と同時に結晶のような電気伝導を有するものが高い熱電変換を示す」という自己矛盾的な概念である。26年度はこの概念を具現化する熱電変換物質一般を対象に理論研究を行った。中でもクラスレート化合物では、ナノスケールの籠がネットワークを形成し、これらの籠内に原子イオン(内包イオン)を取り込むことができる。籠のネットワークは並進対称性を有する結晶構造をとるが、内包イオンの状態に依存して派生する物理現象に注目した。物質を内包イオンがカゴの中心からずれた位置をとるクラスレート物質群は、全温度領域でガラス的な特異な振る舞いを示し、非調和性・局在性・配位空間の複雑性など多様な物理が関係する。26年度には、これまでの研究成果及び今後の課題に言及した総合報告を、協力研究者および連携研究者との共著論文として、Rev.Mod.Phys. vol. 86, p.669-716(2014)に発表した。この成果をもとに26年度は熱電変換が実際に駆動される実行温度、すなわち室温より高温の領域での、クラスレートのフォノン熱伝導の奇妙な振る舞いに関する理論的研究をスタートさせた。この系が結晶の熱伝導の場合と全く逆の温度依存性を示す物理的起源、なぜフォノン熱伝導が温度とともに大きくなるか、についての理論研究を遂行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガラスのような低い熱伝導を示す熱電変換籠状クラスレートに関する研究においては、これまで主に単一の籠の中での内包イオンのラットリング運動が主に注目され、内包イオンと籠の相互作用や隣り合う籠に内包されたイオン間の相互作用の効果は考慮されることはなかった。しかし、内包イオンの局所的対称性が破れ双極子モーメントや籠の弾性歪を誘起することは特に重要である。すなわち隣り合う内包イオン同士の相互作用を無視することはできない。内包イオンとネットワークを組んだ籠との相互作用は、THz領域でのフォノン分散関係にavoided crossing効果に基づく大きな変化を与える。そして、この分散関係はフォノン熱伝導に特報的な効果をもたらすことが分かった。この結果に基づき、実際に熱電変換効果が適用される室温以上の高温度領域でのフォノン熱伝導の研究を遂行し、これまでの研究をさらに掘り下げた。
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今後の研究の推進方策 |
クラスレートがナノ・サイズの籠が規則的に並んだ結晶にもかかわらず観測される実験結果が構造ガラスと同じ振る舞いをするという奇妙な実験結果は、内包イオンの配置の対称性の破れに起因することが、これまでの研究で明らかになった。今後の研究推進において、熱電変換クラスレートに内包されたゲストイオンの局所対称性の破れに伴いTHz振動数領域に発現する新規なモードが、これまで構造ガラスで観測されてきたボソン・ピークに対応することを一般論の立場から論じる。これにより、構造ガラスにおいてTHz振動数領域で普遍的に観測されるボソン・ピークの起源に関する研究に別の切り口からも貢献する。今後、局所対称性の破れに伴い発現する熱電変換クラスレートの諸現象の理論的研究に加えて、構造ガラスに普遍的に観測されるボソン・ピークの物理的起源の解明に関する研究も遂行する。
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