研究実績の概要 |
クラスレート系では、籠の配列が結晶の並進対称性を示すにもかかわらず、籠の中の内包イオンが対称性を破ることがある。これらの内包イオンを含むクラスレートでは、興味深い現象が観測される。代表的なものとして、広い温度領域にわたり構造ガラスと全く同じ熱伝導の温度依存性を示す事が知られている。このようなガラス的な振る舞いを示す奇妙な実験結果は、内包イオンの配置の対称性の破れに起因する。中でも数Kから数10Kで観測される熱伝導のプラトー温度領域では「温度依存性を示さない」ものであり、これまでの常識では理解できない現象である。28年度には、この普遍的に観測されるプラトーおよび関連する奇妙な現象を以下の手順で理論的に明らかにした。1)。対称性が破れたクラスレートには、THz振動数領域で3つの性質の異なるモードが励起されていうことを大規模シミュレーションにより明らかにした。それぞれ、非局在の音響モード、弱局在モード、そして強局在モードが存在することを明らかにした。2)。THz振動数領域での動的構造因子S(q,ω)を計算した。3)。以上の結果に基づき熱伝導プラトーは、音響フォノンが弱い局在モードへ転化することにより生じることを明らかした。4)。さらに温度を100K以上に上げていくと熱伝導度は、温度Tに比例して増加する。この現象に対して、強局在モードが主要な役割を担うことを明らかにした。このモードは、内包イオンの局在モードと籠のネットワークが担う音響フォノンとが相互作用することにより生じた混成モード(Hybridized Modes)である事も明らかにした。5)。非線形ポテンシャルから生じる3フォノン過程により、プラトーの高温度領域で観測される温度Tに比例した特異な熱伝導温度依存性を定量的に説明した。以上の結果は論文、および学術講演会において発表された。
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