研究課題
本研究の目的は低次元量子スピン系における様々な量子状態とそれら量子相の間で引き起こされる新奇な量子相転移現象の特性を明らかにすることにある。トポロジカル秩序変数、エンタングルメントエントロピー、局所Z2ベリー位相といったトポロジカルな秩序を特徴付ける量は、これまで主として1次元量子系を中心に研究が進められてきたが、これらを高次元に拡張し、量子モンテカルロ法などを用いたより精密かつ効率的な測定方法を開発する。さらにそれらを用いて大規模な量子モンテカルロシミュレーションを行い、新奇な相転移や量子相の解明を目指す。新しいアルゴリズムに基づくソフトウェアの整備・公開もまた本研究の大きな目的の一つである。平成27年度は、基底状態からの励起ギャップを精密に測定する方法を開発し論文として発表した。またSU(N)対称性をもつスピン系に対して、局所ベリー位相を用いてN個のトポロジカルに異なる相の存在を示し、その成果を論文として投稿した。ワームアルゴリズム量子モンテカルロ法と機械学習の手法であるRobins-Monroアルゴリズムの組み合わせにより、量子臨界現象の動的臨界指数を正確に見積もる方法を開発し、磁場中の二次元XY模型の量子相転移に適用し、時間反転対称性の有無により動的臨界指数が1あるいは2の値をとることを示した。また、ランダムネスをもつ量子系に対してもこの手法を拡張し、ランダム化学ポテンシャル中の二次元ボーズ・ハバード模型の示す、超流動--ボーズ・ガラス転移の解析を行い、動的臨界指数が系の次元と等しいかどうかの議論を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に挙げた、アルゴリズム開発、それに基づくプログラム開発と公開、それを用いた量子スピン系、ボーズハバード系のシミュレーションによる研究が平行しておおむね順調に進んでいる
平成28年度は、平成27年度の研究を継続するのと並行して、ランダムネスのある長距離相互作用系に対する研究を進める。また、テンソルネットワークとのハイブリッドアルゴリズムの開発を進め、負符号問題のある量子スピン系への応用を試みる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
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http://exa.phys.s.u-tokyo.ac.jp