主に、(1). 量子断熱計算におけるスケジュール最適化、(2). 量子アニーリング系における動的相転移 (3). 熱力学系への応用、の三つの問題について研究を行った。 (1). 量子断熱計算(量子アニーリング)の問題について新しいスケジュール最適化の提案をおこなった。断熱状態制御の方法によると、理想的な制御を行うには制御項を導入する必要がある。一般に制御項は複雑な形をしており実現不可能であることがほとんどであるが、ここではそれを制御コストとみなすことでスケジュールの最適化を行った。制御項を実装する必要はないために汎用的な手法となることが期待される。Grover問題について応用を行い、既存の方法を改良する結果を得た。研究結果を、Journal of Physical Society of Japan誌の量子アニーリング特集への招待論文としてまとめた。同時に断熱状態制御の方法について概要をまとめた。断熱状態制御の方法に基づいた最適化についてさらなる議論を行い、2種類の制御項を用いた新しい最適化手法を考察した。この問題については一部を日本物理学会で発表したが、未完である。 (2). 量子アニーリング系における動的相転移の問題を考察した。実際にD-Waveマシンで用いることができるクエンチスケジュールにおいてLoschmidtエコーにあらわれる特異性がどのように生じるかやKibble-Zurek機構との関係を数値的に調べた。成果の一部は学会で発表を行ったが、D-Wave上での実験はこれからの課題となる。 (3). 開放系における制御の熱力学的性質を調べた。マスター方程式に対して断熱制御の方法を適用すると定常状態制御の問題と解釈できることがわかった。ゆらぎの定理との関係も議論することができる。具体例として断熱ポンプの問題を考えカレントを制御する手法を調べた。一般化を現在もすすめている。
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