研究課題/領域番号 |
26400387
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
奥西 巧一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30332646)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エンタングルメント / 量子モンテカルロ / 縮約密度行列 / 変形問題 |
研究実績の概要 |
今年度は、サイン2乗変形を施した1次元量子系のうち、自由フェルミオンであらわされる連続空間中の模型に対して進展があった。1次元フェルミ多体系のサイン2乗変形を、サイン2乗に逆比例するポテンシャル中の量子力学的な問題の逆問題として定式化することで、厳密な解析を行えることがわかった。具体的には、そのポテンシャル逆問題に対して形状不変性を持つ超対称性量子力学を組み合わせることで、全1粒子状態の波動関数をすべて多項式として表現し、超対称性の持つエネルギーの縮退構造から、逆問題を完全に解くことが出来ることを示した。これにより、周期境界条件を持つ一様系とサイン2乗変形系の基底状態の一致を厳密に証明することができたとともに、サイン2乗変形系の有限サイズスペクトルが通常とは異なり、サイズの2乗に逆比例することを示すことができた。これの結果はJ. Phys. A:Math. Thoer. 誌に発表済みである。 一方、量子モンテカルロ法におけるエンタングルメントの構造のヒントを得るべく、量子スピン系に対する世界線モンテカルロシミュレーションのスナップショットについての研究も行った。1次元横磁場イジングやXXZ模型に対し、世界線モンテカルロシミュレーションを行い、その世界線のスナップショットの部分和を取ることで、擬似的縮約密度行列を生成し、固有値スペクトルの分布関数を求めた。スペクトルの温度変化や量子臨界現象にともなうの分布関数の特徴を精査し、高温極限では世界線が折れ曲がらないためにトリビアルな最大固有値を持つ分布が現れること、臨界現象では系のアスペクト比を固定しながらスケールすることで、臨界現象にともなうべき分布が抽出できることを見出した。これらの結果は日本物理学会や国際会議において発表済みであり、順次、論文としてまとめていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、量子多体系のエンタングルメントと量子モンテカルロの関連について重点的に調べてきた。今年度は、新しい視点を提供するサイン2乗変形と、量子モンテカルロ法のスナップショットについての研究が順調に進展した。まず、サイン2乗変形は、非一様な系であるのに一様周期系と同じ波動関数を持つという特異な構造を持っているが、その数学的な構造がよく分からなかったため、エンタングルメントなどの制御構造を解明することができなかった。この系に対し、数学的に厳密な理論を構築することが出来たので、今後の相互作用の変調を用いたエンタングルメント制御のための重要な知見がえられたと考えられる。また、一般の共形場理論に対するサイン2乗変形についての新しい量子化法に対する着想を得ており、この路線でのエンタングルメントハミルトニアンの構成が視野に入ってきいる。 一方、量子モンテカルロ法のスナップショットのスペクトル分解に関しては、これまで量子ー古典対応に基づいて、古典系スナップショットにおける議論が行なってきたが、今回、量子系を直接的に扱っても、古典系の場合とコンシステントな振る舞いを得られることが分かった。すなわち、世界線の絡み合いの度合いを表すスペクトル分布関数が、折れ曲がりの度合いを反映した最大固有値の系統的な変化を示すこと、および、臨界現象がべき分布を示すことがわかった。これにより、これまでよく分からなかったスナップショットの絡み合いの系統的な研究が出来るようになった。量子モンテカルロ法における世界線の絡み合いと量子エンタングルメントの研究についても、新しい要素を取り込みつつ、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
SO(N) biliner-biquadratic鎖の負符号除去問題は、京都大学の原田氏との共同研究によりすでにシミュレーションの結果を論文としてまとめられる段階であるが、若干の追加の計算を行う必要が残っている。これの計算を終了させ次第、結果を論文としてまとめる予定である。さらにH27年度までに、量子モンテカルロ計算におけるスナップショットスペクトルの基本的性質が確かめられた。これをエンタングルメントに直接完成させるべく、自由フェルミオン系での互いの共通項である相関関数を通じた解析を行う。具体的には、XY模型を例にとって、スナップショットスペクトルの分布とエンタングルメントスペクトルがどのようにに関係付けられるか、関数系を解析的に導出し、数値シミュレーションにより精査していく予定である。これにより高次元のエンタングルメント構造の理解に新しい数学的にしっかりとした視点が加わると期待している。 一方、これまでの進展によりサイン2乗変形問題を一般の共形場理論に対して定式化することが可能になった。このことは、理論的にはハミルトニアンのエネルギースペクトルと共役なエンタングルメントハミルトニアンを理論的に構成できることを意味する。このエンタングルメントハミルトニアンのスペクトルは一様系における密度行列くりこみ群の固有値分布と対応しており、その空間非一様な系の対応物がグローバルな共形変換を通じて構成できることになる。この予想を確かめるため、解析的にエンタングルメントハミルトニアンを構成する一般論を構築し、順次、数値計算による検証計算を行っていく予定である。 本年度は最終年度にあたるため、上記の結果についても出来るだけ早く論文としてまとめられるような体制をとるとともに、国際会議などで積極的に結果の公表を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析計算の検証用に必要な数式処理ソフトMathematica(21万円)を購入するにあたり、年度末になったため、経理の都合上翌年度4月に購入することとし、相当額を繰り越すこととした。したがって、繰越は生じているがほぼ計画通りの使用で進んでいる
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度当初に、繰越金によりMatematicaを購入予定であり、解析計算の補助にすぐに投入する。新年度の配分分については、一部は、京都大学の原田氏とのSO(N)鎖の負符号についての共同研の仕上げのための打ち合わせ旅費や、追加計算のための計算機などに用いる予定である。残りの部分については量子モンテカルロにおける高次元のスナップショット密度行列のスペクトル解析用の計算機やソフトウエアの整備、また、引き続き理研計算機機構の上田研究員、神戸大の西野准教授との究研究打ち合わせや論文取りまとめのための旅費して使用していく。また、本年度は計画の最終年度に当たるため、国際会議での成果の発表を積極的に行ってゆきたい。そのための旅費としても活用していく予定である。
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