研究課題
本研究課題の最終目的は,ネットワーク上でのリスク分散モデルの構築・分析することである.リスク分散は,進化生態学では両賭け戦略として,金融・経済システムでは分散投資として知られ多岐にわたる分野で重要な概念である.生息地や投資対象をサイトとみなし,そこに置かれたリソースがどのように成長するかを数理モデルで検証する.まず,リソースの分散がそのサイトの成長率を見て決めることができる場合について調べた.このような選択的な分散戦略はランダムな分散に比べ全体の成長を促進するかのように思えるが,実際はそうならないことが示された.これは安易に成長を追い求める戦略がハイリスクを伴いトータルでは低成長になってしまうということを意味している.上記のようなリスク分散モデルではサイトごとのリソースの分布がべき乗則に従うことも知られている.ここでは各サイトの成長率に相関がある場合についても検証した.一般に空間的相関がある場合はべき乗分布の指数を大きくなりサイトごとの不平等性は減少する.一方,時間相関だけを考えた場合,べき指数は小さくなり,不平等性が高くなることが知られていた.ところが本研究で時間相関が導入されるメカニズムによっては,べき指数は変わらないことが示された.相関がない場合はべき指数が1となるZipf則付近で成長率が最大となることも示していたが,相関がある場合についての検証は現在進行中である.上記の研究と関連してネットワーク上の伝播モデルについての研究もおこなった.このようなモデルとして感染症のモデルがよく知られているが,ここでは一般的に拡張して6通りのモデルを構築して伝播メカニズムを検証した.さらにネットワーク上のゲームダイナミクスについても研究成果を上げることができた.これらの研究成果の統合し現実問題に応用していくことが最終年度の課題となる.
2: おおむね順調に進展している
元々のモデルはランダムマルチプリカティブプロセスを連立させたものであった.連立の仕方でネットワークの結合様式が決まる.成長率で分散が決まる選択的移動の場合の結果はJournal of the Physical Society of Japanに掲載された.実在のシステムでは各サイトの成長率に何らかの相関があると考えられる.時間的な相関だけであれば比較的容易に扱えるが,空間的な相関がある場合には問題が複雑になる.空間相関を一様にすることで解析的な取り扱いができ,この場合についての一般法則を導くことができた.これについては当初の予想していたものより良い成果が挙げられたと思っている.この成果はEurophysics Lettersに掲載されている.また空間相関がネットワーク的に入り組んだ場合については現在進行中で,早急に論文にまとめたい.一方で,ランダムマルチプリカティブプロセスの結合様式が複雑ネットワーク的に入り組んだ制約を持つ場合の解析については,実のところまだ進んでいない.その代替としてリスク分散を伝播過程として考えネットワークに広がっていく過程を考察した.これはネットワーク上の感染症モデルを拡張したものである.このモデルについて解析解が得られ数値計算と比較しても満足な結果が得られている.この結果はScientific Reportsに論文として掲載されている.今後は元のモデルについての解析に応用できると考えている.その他にも関連した研究をいくつか論文としてまとめることができ,成果の多い年度となっていると考えている.
リスク分散モデルの各サイトの成長率の相関がネットワーク的に入り組んでいる場合について得られている研究結果を早急に論文にまとめていきたい.またこれまでのところ結合様式が複雑ネットワーク的に入り組んだ制約を持つ場合についての解析が遅れているので,まずはこの遅れを取り返したい.そのためには連立したランダムマルチプリカティブプロセスとネットワーク上の伝播モデルとを統合していく必要があると考えている.これは初めから予定していたネットワークの二重性について解明することに繋がる.つまり元の所与のネットワークとリスク分散を最適化した結果得られた移動ネットワークの特性を比較する.アプリオリのネットワークとア・ポステリオリのネットワークのいわば二重性があるモデルであり,複雑ネットワーク研究の新しい方向性であり画期的な知見が得られる可能性があると考えている.さらに一般的なネットワーク上のメタ個体群モデルの数値計算を系統的に行い解析を進める.同時に既存研究で頑健性を持つとされているネットワークと比較を行い,ネットワークの安定性についての理論を構築する.また研究の進展に応じて実在のネットワークの特性との比較も行う.このようにして得られた知見を生態系の保全や金融・経済の安定化のために適用する.特に進化生態学者である分担者の吉村の協力のもと生態学を格段に発展させるような研究成果を目指す.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Nonlinear Theory and Its Applications IEICE
巻: 7 ページ: 110-117
10.1587/nolta.7.110
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 22506
10.1038/srep22506
Europhysics Letters
巻: 113 ページ: 40007
10.1209/0295-5075/113/40007
Royal Society Open Science
巻: 2 ページ: 150330
10.1098/rsos.150330
http://www.msys.eng.shizuoka.ac.jp/~morita/index.html