平成28年度は主に以下の成果を得た。 1)「量子導体を流れる情報量のと電子数分布」:前年の研究を発展させ、電極の電子数を観測した場合の情報量の分布をもとめた。この期待値は実際に利用できるエンタングルメントを定量化する。また、Peltier効果(熱電効果)のアナロジーを使い、一電子が運ぶ情報量の効率の分布を求めた。成果の意義は、粒子数の測定を記述する手法を開発したことで、熱電効果との対応を明確にし、情報と熱電効果のアナロジーをつけた点にある。 2)「量子導体中の熱電効果における効率の分布」の研究:量子系では、出力電流と入力熱流は揺らぐために、効率の揺らぎが重要となる。そこでトンネル接合の場合で効率の分布を計算し、効率の期待値が時間依存性を持つことを示した。本研究結果の意義は、有限時間では効率の期待値が巨視的な効率を上回り得ることを明らかにした点である。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果について:研究の目的は量子導体において発熱によるエントロピー生成が、非平衡電気伝導特性とくに「量子揺らぎの定理」にあたえる影響を明らかにすることであり、実施計画は,電流確率分布の理論(完全計数統計理論)を用いて、熱電効果の量子揺らぎの定理を構築することである。 成果の具体的内容について、「熱溜めと結合した量子導体における、熱流の確率分布と揺らぎの定理」の研究で開発した手法を、「非平衡スピントルクによる微小磁石の反転確率」と「熱電効果について効率の揺らぎの分布」の研究に発展させた。また「量子系の事前・事後選択のもとでの、熱溜めに放出する熱流の確率分布」の研究を発展させ、「自己情報量の分布」の研究に発展させた。これらは開始当初の実施計画を超えて、熱電効果における量子揺らぎの定理における、微小熱機関としての熱溜めの役割と、情報エントロピーの役割を明らかにした意義があると考えている。
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