研究課題/領域番号 |
26400395
|
研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
狐崎 創 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (00301284)
|
研究分担者 |
中原 明生 日本大学, 理工学部, 教授 (60297778)
大信田 丈志 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50294343)
松尾 洋介 日本大学, 理工学部, 研究員 (40611140)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 物性基礎論 / 非線形動力学 / レオロジー / 乾燥破壊 / 記憶効果 |
研究実績の概要 |
ペーストの乾燥破壊で研究分担者の中原、松尾によって発見されたいわゆる「揺れの記憶」は、研究分担者の大信田や、連携研究者の大槻らによって残留応力に異方性があるとする理論が提案されている。本研究では、揺れがペースト内にどのような異方的な構造を形成し、その構造がどのようにして破壊時の亀裂方向を決めるのかを明らかにすることを主な目的とし、(1)乾燥中の応力や変位の測定、(2)X線CTによる粒子配列の観察、を行っている。 (1)に関しては初年度に複数の板バネを底に取り付けたペースト容器を作成し、ペースト内の張力の発生に伴う板バネの曲げ変形を測定した結果、初期に加振を行った場合、ペースト内の応力に小さな異方性が生じ乾燥中とともに増加していることがわかった。この異方性の符号は残留応力理論と一致している。今年度はその測定精度を高めて検証を行うとともに成果発表を行った。また結果を論文にまとめて投稿中である。 (2)に関しては試行錯誤を経て粒子配列の撮影が可能となった。この過程で、最適な粉体を探し記憶効果を確認する実験、造影剤の導入とテスト、撮影用のサンプル容器の作成などを行った。今年度は特注で作成した専用の微小な二重円筒容器を用いてずり変形を与えたペーストを撮影する方法と、寒天を混ぜたサンプルを乾燥途中で固めて切り出した後に撮影する方法を試み、解析の結果、後者の方法で期待された異方性を確認することに成功した。成果はまだ論文発表には至っていないが、現段階までの結果は物理学会で発表済みである。 また、本研究のX線CT観察の一環で、初年度に研究分担者の提案で実施された記憶効果を示す磁性ペースト試料の分析についても、関連する成果発表が行われている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績欄に記載した通り、(1)に関しては初年度にマクロな応力測定でペーストが破壊する前に異方性があることを見つけ、今年度はその測定精度を高めて、学会や研究会等で成果発表を行うとともに、論文を投稿する段階まで進めることができた。また、併せて乾燥中のペーストの曲げ試験を行って歪・応力曲線に相当する応答を調べた。
(2)に関しては初年度は予想以上に試行錯誤が必要だったものの、今年度は粉体の選定、実験容器や装置の作成を概ね予定通り終了し、研究分担者・連携研究者・研究協力者らも随時参加して、3回(合計5日間)の立ち会いでのX線CTの撮影を行った。2種類の撮影方法で粒子配置の観察に成功し、また測定条件を決めるための乾燥破壊実験や相図の作成もそれぞれの撮影方法に併せて行った。撮影結果の解析は、相関関数の計算と、研究協力者の西本による粒子間ベクトルの分布解析の2つを独立に行った。その結果として、寒天で固めた乾燥中のペースト内には、異方的な粒子配置があることを確認することができた。
これまで記憶によるペーストの異方性は乾燥破壊のパターン以外に検出する手段がなかったが、これらの成果によって破壊前の異方性がマクロとミクロの両面から確認できることが明らかになり、異方性がどのように乾燥亀裂に影響するかを理解する手がかりが得られたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は解析や追加の実験を進めて、国際会議での発表を含め、得られた成果の発表を行う予定である。応力測定実験に関しては論文投稿中である。粒子配列のX線CT観察は当初の計画通り2年間の撮影日程が終了し、発表できる成果も得られたので、詳細な相図の作成やレオロジー測定、画像解析の方法を変えて新しい情報が得られるかどうかの検討などを行いつつ、論文として成果をまとめる。また、予算の調整ができてもし撮影費が確保できるようであれば、追加のX線CT撮影を行いたいと考えている。 さらに記憶効果を含む乾燥破壊の総合的な理論や、塑性変形を伴う破壊過程の数理モデルの提案など今後の発展に向けて研究を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度の予算は主にX線CTの立ち会い測定3回(計5日間)、および使用する粉体と撮影用の容器の制作費に使用しほぼ予定通りの支出であったが、残額として3万円ほどが未使用となった。追加のX線CT撮影が必要な場合などを考慮して、繰り越すこととした。
|
次年度使用額の使用計画 |
最終年度の旅費および実験費、可能であれば追加のX線CT費の一部として使用する計画である。
|