微生物スケールの遊泳に関して,ミドリムシの個体遊泳,運動変化,集団運動に至る階層的流れ構造の形成を調べた.高速度撮影カメラと顕微鏡により自由遊泳するミドリムシの特徴的な鞭毛運動を計測した.またその数理モデルを構築し,推進力を見積もった.ミドリムシ個体の運動を撮影し,その結果から統計法則を調べ,運動の継続距離,待ち時間,待ち時間前後の方向転換の分布を調べた.これらは大腸菌に見られる分布とは異なっている.また,それらを取り込んだ確率モデルを作成したうえで自乗平均距離をしらべ,実際のミドリムシの運動と比較した.これらの結果は懸濁液のモデル化の基礎となるべきものである.更に光環境が非一様な場合について,その運動法則をミクロおよびマクロな観点から実験的に調べ,光強度の勾配に応じた運動を定量的に明らかにした.この結果に基いた光環境下での生物対流モデルを解析し,局在対流の再現およびそのダイナミクスを調べた.昆虫スケールの飛翔に関しては,流れ構造の形成過程を明らかにするため単一渦モデル近似を用いることで,剥離渦の形成過程を解析した.特に剥離渦の動力学を可視化する手法を考案したことで渦構造の自律的な形成過程およびその頑健性の解析に役立てられると期待される.研究期間中には本課題に関連する研究の調査および研究内容の議論を行うために関連研究者を招いて研究会を行った.一度目は2014年11月4日から6日,二度目は2015年10月26日から28日,三度目は2016年10月30日から11月1日で,場所はいずれも京都大学数理解析研究所である.
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