研究課題/領域番号 |
26400397
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
樋口 克彦 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (20325145)
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研究分担者 |
樋口 雅彦 信州大学, 理学部, 教授 (10292202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導 / 密度汎関数理論 / 臨界磁場 / 転移温度 |
研究実績の概要 |
昨年度は,超伝導臨界磁場および転移温度を予測できる「超伝導電流密度汎関数理論」の定式化(基本定理の証明と有効方程式の導出)を行いました。今年度は,当初の計画に従い,この超伝導電流密度汎関数理論による具体的な数値計算に必要不可欠な交換相関エネルギー汎関数(Exc)の近似形の開発を進めました。昨年度はExcの厳密な表式である結合定数積分表示を与えましたが,今年度は一重項あるいは三重項を誘起するExcの具体的な近似形を考案しました。これにより,新しい理論開発の両輪である定式化とExcの近似形開発の両方が完成したことになります。現在,これらの成果を論文にまとめ上げている段階です。 本研究では,常伝導状態を利用して「超伝導電流密度汎関数理論」の有効方程式を解くという戦略(ドジャンの近似法の応用)で理論の検証を目指しています。昨年度は磁場下金属の常伝導状態における電子状態計算手法(MFRTB法)の開発を行いましたが,今年度は,このMFRTBの有効性の実証を進めました。具体的には,MFRTB法を常伝導状態の金属に適用し,通常のdHvA振動に加え,新しい付加的な磁化振動が現れることを数値計算により明らかにしました。 さらに,当初の計画にはありませんでしたが,本研究では,「粒子数ゆらぎ」を超伝導の秩序変数の代わりに使用する超伝導理論の検討を昨年度より行っています。本年度は,この新しい理論の根幹となる「超伝導の秩序変数が発現すると,「粒子数ゆらぎ」がオーダーNになる」という定理の証明を与えました。「粒子数ゆらぎ」は,電子密度と対密度を用いて記述できます。そこで本年度は,これらを基本変数に選んだ「超伝導のための有限温度対密度汎関数理論」の定式化を行いました。これらの成果は、論文の形でまとめられ現在投稿中です。また国際会議でこれらの成果を発表(招待講演)することが決まっています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超伝導電流密度汎関数理論の開発では,難所であった交換相関エネルギー汎関数の近似形開発が当初の予定通り終了しました。また,磁場下常伝導物質の電子状態計算手法の開発はその有効性の確認まで完了し,当初の予定より早く進行しています。さらに,当初の計画にはなかった「粒子数ゆらぎ」を超伝導の秩序変数の代わりに使用する「超伝導のための有限温度対密度汎関数理論」についても成果が得られています。したがって、当初の計画以上に進展していると言えます。
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今後の研究の推進方策 |
[磁場下での常伝導物質の電子状態計算] 昨年度までに開発したMFRTB法の適用は結晶構造として単純立方格子の金属に限られていましたが,最終年度は磁場下での超伝導物質の電子状態計算を行う予定であるため,具体的な磁場下金属(スズや鉛)の常伝導状態における電子構造の計算を行います。dHvA振動の実験結果などと比較することで,本計算手法で得られた磁場下の常伝導状態の妥当性を検証する予定です。 [磁場下での超伝導物質の電子状態計算] 最終年度は,ドジャンの近似法による超伝導状態の計算を計画しています。具体的には,上述のMFRTB法で得られる常伝導状態に乗じる滑らかな関数を,「超伝導の電流密度汎関数理論」の有効方程式を解くことで決めます。有効方程式に含まれるExcには,今年度考案した近似形を用います。超伝導オーダーパラメータの消失する外部磁場と温度を計算することで,超伝導臨界磁場と転移温度を見積もります。 [超伝導のための有限温度対密度汎関数理論] 最終年度は,「粒子数ゆらぎ」を再現できる「超伝導のための有限温度対密度汎関数理論」の具体的な計算手法の構築を行います。特に,「粒子数ゆらぎ」を再現する参照系の設定および有効方程式の導出を行います。 [Excの近似形開発] 昨年度までに具体的な数値計算に必要な近似形を開発しましたが,Excの近似形は「超伝導電流密度汎関数理論」の計算精度に直接関係してきます。今後の発展を考えて,最終年度も引き続きExcの近似形開発は行っていく予定です。具体的には,Excの超伝導秩序変数による展開式を利用することを考えています。ゼロ次の項には,我々が開発した「常伝導の電流密度汎関数理論」のVEA 表式がそのまま使え,一次以上の項は,ギンツブルグ・ランダウ理論の自由エネルギーの展開式が利用できるのではないかと考えています。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた物性物理関連図書が,絶版等により入手できなかったためです。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に実行予定の数値計算に使用する計算機の,消耗品およびメモリ増設に使用したいと思います。
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