研究課題/領域番号 |
26400398
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
渕崎 員弘 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (10243883)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポリアモルフィズム / ヨウ化錫 / ヨウ化ゲルマニウム / 水 / 第二臨界点 |
研究実績の概要 |
水のポリアモルフィズムに関するシナリオの完全終結には第二(液相間)臨界点の存在を示す必要がある。この点を現実には観測できない水の代わりにヨウ化錫SnI4、あるいは、その類似物質であるヨウ化ゲルマニウムGeI4を使って「前人未到」の第二臨界領域に足を踏み入れることが本研究全体の目的である。 初年度となる平成26年度はGeI4液体構造の定量的評価を計画した。まず、GeI4の融解曲線が示す異常性(論文出版済)から、3GPa付近での液相間転移の存在を予想した。SnI4だけでなくGeI4も扱う理由は3GPa付近の方が観測し易いためである。手始めとして、基準構造となる低圧液体構造を知るためにSPring-8 BL04B2にて1気圧下での精密な構造測定を行った。逆モンテカルロ法で決めた実空間構造に対するVoronoi多面体解析の結果、9面体という多面体の存在が、こうした四面体構造をユニットとしてもつ不定形構造の特徴を表すことを示した。この構造解析を行うために標準液体模型を構築し、融解現象を論じた(論文印刷中)。次に、局所構造の変化の有無を明らかにするべく、KEK-AR NE5Cにてた放射光X線その場観察実験を行ったところ、構造因子で見る限り、低圧液体と高圧液体構造に明確な差が見出せなかった。特に、高圧側で構造因子の高波数側が不明瞭である。これがKEK放射光の高エネルギー成分不足によるためか、あるいはGeI4の性質であるものかを見極めるため、SPring-8 BL14B1で追試したところ、後者によるものであることが分かった。実空間構造の圧力依存性はSnI4同様の特徴を有している。これまでの測定結果を総合すると、3GPa付近での低圧から高圧構造の移り変わりは確かに認められるが、その変化は決してシャープではない。これらの結果は日本物理学会秋季大会にて報告の後、論文として出版予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には水型オープンネットワーク構造模型の標準化と低近似解に関する研究を計画していたが、これは同年度に訪問したチェコ科学アカデミーのNezbeda教授との共同研究に発展している。課題が大きく、且つ、さらに系統的になった分、進展が遅くなっているが、同教授から示唆されたBuckinghamポテンシャルを採用した新模型により、当初予想していなかったプラスチック相転移も現れ、その相構造がリッチな様相を呈している。まずは、液体構造の圧力依存性を精査することにした。 一方で次年度に予定していたSnI4液体の密度極大の観測はKEK-AR NE7Aの高圧発生装置の仕様に変更を加え、先行予備研究として実施した。これにより低圧(1GPa未満)での液体安定保持には、試料容器周りに更なる改善が必要であることが分かり、具体的な方策は平成27年度に実施予定のSPring-8での実験へフィードバックされる。
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今後の研究の推進方策 |
KEK放射光予算削減による放射光ビームタイムの半減、および日本原子力研究開発機構の改組は本課題申請時、および採択時には不明であった。特に前者はKEKでの課題が採択されているにもかかわらず、ビームタイムが平成26年度後期に配分されないという事態に至っている。必要な装置改良が困難であるため、想定される第二臨界点での小角散乱測定ではなく、第二臨界領域流体相での密度極大の検出を狙うことに切り替えた。このための実験チームを編成し、SPring-8課題として応募したところ、平成27年度課題として採択されている。 理論面では「現在までの達成度」で述べた新しい模型がpromisingである。優先的に研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
KEK-PF予算削減のため課題が採択されているにもかかわらず平成26年度後期のKEKでの放射光ビームタイムが配分されなかった。このため次年度予定の理論研究を先行させ、実験に必要な物資の調達を次年度にまわした。
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次年度使用額の使用計画 |
KEKでの実験可否については不定の要素が大きいため、SPring-8での実験期間を当初の予定よりは増やして申請を行う。採択された場合にはSPring-8でのビーム使用料にあてる。
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