研究課題/領域番号 |
26400399
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
大塚 博巳 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (10254145)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | フラストレーション / スピンアイス |
研究実績の概要 |
初年度の研究では主に(1)カゴメアイスのAC磁気応答に見られるユニバーサルスケーリングの提案および(2)スピンアイスのループストリングアルゴリズムモンテカルロ法の開発を行った。(1)で我々は欠陥の電荷分布による帯磁率の表記を用い、更に欠陥の拡散運動を仮定してAC磁気応答のスケーリング理論を提案した。(2)では最近接相互作用をするスピンアイスの各四面体が持つ局所ボルツマン重みに対するグラフ分解の問題を解くことにより、ループストリングアルゴリズムモンテカルロ法を提案した。 二年度は上記の経緯を踏まえ以下の研究を行った。スピンアイスの低エネルギー励起は基底状態の縮退した配置集団からの励起である磁気モノポール的欠陥が重要な役割を果たす。一方でスピンアイスのカノニカルモデルは、最近接相互作用に加え長距離力であるダイポール相互作用を含み、従ってモンテカルロ法による同モデルの効率的なシミュレーションアルゴリズムを開発する必要がある。 我々は、ダイポール相互作用を欠陥の自由度間に働くクーロン力として近似的に書き改めたハミルトニアンを出発点とするモンテカルロアルゴリズムを考案した。アイスルールを司る最近接相互作用は上述のループストリングアルゴリズムで、長距離クーロン力はエバルト法を使用しメトロポリス法を用いてそれぞれ取り扱うハイブリッド型のアルゴリズムである。その利点は以下である:一般に長距離相互作用を持つ系の計算ではO(N**2)問題(演算量が系の自由度の二乗で増加する為、大きな系の計算が出来ない問題)がある。一方、本アルゴリズムではNに対応する量は欠陥の数でありアイスルールが重要な低温では指数関数的に減少する。従って従来の方法に比べ大きな系の計算がスピンアイスのカノニカルモデルに対して可能となった。現在、欠陥の空間分布などの詳細について数値計算を行なっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で詳述した通り、スピンアイスの磁気AC応答の理論の構築やモンテカルロアルゴリズムの開発は概ね当初の予定通りである。特にループストリングアルゴリズムを用いることでスピンフリージング問題が解決され更にダイポール相互作用を効率的取り扱えるようになった事は大きな前進である。一方、量子スピンアイスの基底状態および低エネルギー励起の研究や、より一般的にフラストレードした量子スピン系の研究に有効な数値手法の開発などは依然として今後の課題として残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
三年度の研究の推進方策としてはまず電荷相関関数を精密に計算しAC磁気応答のスケーリング理論や実験との比較を行なっていく。また一様磁場中のスピンアイス(所謂カゴメアイス)の性質も注目を集めている。それに適した数値計算法を開発すると共にそれに関連する「分子ネットワーク系」の研究も行う。 一方で量子スピンアイスの擬スピン模型であるスピン1/2パイロクロアXXZ模型に対する研究を手がける。同模型では量子液体相や新奇な低エネルギー励起の存在が示唆されており興味を持たれている。我々はまず厳密数値対角化法や修正ランチョス法を用いて基底状態の波動関数や励起スペクトルを求め量子スピンアイスの低エネルギー励起の性質を調べる。一方これらの手法では16サイト立方セルの系から32サイト菱面体セルの系までとその扱えるサイズには強い制限がある。対角化法以外に数値くりこみ群法などフラストレードした量子スピン系の研究に有効な数値的手法の開発を行いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予算との執行額累計額の最も大きな違いは旅費に関するものである。具体的には当初予定していた国際会議(磁性に関する国際会議ICM2015)への参加を見合わせたことによる旅費の未使用が主だった理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、研究三年度つまり2016年度に開催される会議への参加および講演を行う予定にしているので、その旅費として支出をする。
|